コンテナガレージ

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水中では動きが鈍る 1-1

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 早足で歩き駐車場を横断。エンジンを掛けるのかと思いきや種田が乗り込んでも運転席の熊田は火のついていないタバコを咥えたままフロントガラスとにらめっこ。日井田美弥都とのやり取りから何かを掴んだのは不自然な行動から窺えた。両手でハンドルを抱え込むような格好である。種田は、こちらの世界に帰還するのをただ待った。
毛づくろいの猫、強まる塩風、前かがみで窓からの曇り空。
 空を眺める時はいつも時間の流れが遅い。
 空をいつも見ている人は遅いとは感じない。
 比較の問題。
 建物の中だけの生活には空は密接していない。
 それでも、思い出してふとした時にだけ空を見上げて存在の再確認で心を映す。
 草原に仰向けに寝転がり、後頭部の下に両手の枕。
 かけ離れていた私がやっと帰ってくる瞬間。
 ここでは、ここだけは混ざり合って同化が許可される。
 腰から伝わる振動音に遅れてエンジンの重低音が聞こえてきた。熊田の帰還である。窓をあけると熊田は断りもなしにタバコを吸い始めてしまう。機嫌がいいからなのか、指摘するタイミングを見失う種田。
「犯人がわかったのですか。随分と黙っていましたけど」
「うん、どうだろうか。確証はないが、これなら全て説明ができる」
「おっしゃってください」
「君にか?」片目だけを種田に注ぐ。
「私のお腹にしがみついてる幽霊にでも話します?」
「ははっ。いいや、まだ話すわけにはいかない。情報が漏れると次に行動を起こしてくれなくなる」車が走りだす。種田は熊田から犯人へと導いた論理を聞こうと待っていたが、二人の間にはそれ以来のおしゃべりはなくなってしまった。
 熊田と種田は一旦署に戻ると、鑑識の神を探して署内を歩きまわった。三度目の聞き込みでようやく食堂でカレーを食べている神を発見した。
「神さん、いい加減携帯を持ってくださいよ。探すのにも一苦労です」テーブルを挟んで二人は背もたれのない丸椅子に腰を下ろす。
「署内にいても、携帯で居場所を探されちゃ、四六時中見張られているようなもんだろう。お前ら、よくそれで生きていられるな。そんなに人恋しいのか」カレーを口に運び、上目遣いで熊田に答える。神の額にはスパイスのためか、うっすらと汗をかいている。
「最低限のマナーですよ。見つけるだけで10分もかかるなんて、タバコを一本吸い損ないました」呆れたように熊田は、肘をついていった。
神は口の中のものを噛み砕き、水で流し込んでから話す。「見つけた労力をあれこれ言う時間があるのなら、それほど急いでいない証拠じゃないのか?んで、なにか用か?まだ聞いていなかったな?」