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水中では動きが鈍る 1-4

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「参ったな。誰にも言うよな」一度種田を見て、視線を逸らしまた、元に戻してから言った。
「今まで私が誰かに話した事実があったでしょうか?」じっと真っ直ぐな種田の眼差し。
「ない。もっとも会話の頻度が少ないだけだがな」
「それがなにか?」「
「いいや、なんていったらいいかな」負け戦を認めて熊田しぶしぶ質問に答えた。「まず一連の事件はおそらく同一人物による犯行だ。待て、質問はあとだ。そう、一件目の事件は誰にでも起こりうる被害だったが、明らかになった被害者の母親の行動から何らかの関与が疑われた。行動も不信でレンタカーの利用も疑われる要因であった。だが、犯人といえるような明確な証拠は浮かんではこない。むしろ母親は怪しさを漂わせたままで翻弄されるだけ。過保護な母親の性格もある程度は許容されるし、捜索願の提出も最寄りの警察に届ける必要性は全くない。もし失踪していたとしたら、見つかるのは自宅近辺ではないからだ。そして二件目。塾講師の死体。遺体は妊娠していた。しかし、その相手が見つからない。体には無数の傷。ただし、これは死に至らしめた致命傷ではなくて、一件目と同様に死因は頭部の強打によるものであった。更に、三件目と言いたいが……」言葉を濁した熊田の後続の発言を種田は待つ。部屋には二人だけだ。入れ違いに事務処理の職員が出ていったばかりで、それから人の出入りはない。
「他に事件が発生していたのですか?何も聞いていません。他の班が動いていたのでしょうか」
「相田が駆りだされてた銀行強盗、お偉いさんが会議で言いかけただろう?なんでも、逃走と現金の強奪手際が鮮やかで手がかりは何もないそうだ」
「?」頭にはなてを浮かべて熊田の意図が汲み取れないという表情で続きを待つ。
「立体駐車場で逃走車両が発見された。後部座席にバッグとドアに1万円札が挟まっていた。強盗犯の足取りが掴めずにいた警察は証拠品の回収に躍起になる。すると、いままで捜索の対象であった銀行は数名の捜査員を残してがら空きとなる。行員たちも捜査協力で通常の営業には戻れないでいた。はたして、紙幣は本当に外部つまり、銀行外に持ちだされていただろうか」
「銀行強盗の謎解きですか?私が聞いているのは殺人事件です」
「2つの事件は繋がっている。警察の視点は逃走車の発見により移動された。そう、意図的に。目の前の大好物よりも空腹時のおにぎりの方が美味しいのはどうしてだろう。諦めたその時に思いもよらない場所からの恵みだったら信じられ、ありがたい、美味しいと感じてしまう、確実な証拠だと半ば決めつけで貪り食う。食べている時は、食べている自分の姿なんて誰も気にしない。満腹になってお腹を満たし、消化の作業が終わった時にやっと、思い返す」
「!」種田の両目がさらに見開く。
「ダミーの逃走車両はもしかすると各所にセッティングされていたのだろう。その内の一つを仲間かもしくは一般市民が見つけて通報し警察が騒いでくれれば、あとの残りは混乱の中で回収する」