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水中では動きが鈍る 1-6

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 犯行自体が演出で、取り調べも行員たちの演技。
 騙されたのは最初からか。
 お金はどこへ消えた?
 銀行内からは一度持ちだされて、近くの安全なしかも調べの付かない場所に保管され、警察の撤収で回収。
「もう一度聞きますが、銀行強盗と殺人の結びつきは何でしょうか?」思い出したように種田は口を開く。必死だったと思う。分からない問題など彼女の人生においてはたったの数度しか遭遇していない。まして、現実世界でのやり取りなどは紋切り型の人間が行った事情である。分からないハズはない、どこかに近くそれも遠くない時間にそれと似たような現象は起きていて、まるで双子のように姿を似せている。だから、探せばいいのであって、無理に考えてあれこれと無暗に考えをめぐらさなくとも答えは隣にあるのだ。考えるだけの頭を持っていれば悩みとして機能するが一般人、または高性能であると自負している者たちには人の考えをトレースするだけでこの世界は事足りる。
 しかし、日井田美弥都なる人物は脅威であると同時に稀有な頭脳を持った存在である。彼女だけは常識が当てはまらない、種田はそう感じた経験があった。以前に事件のあらましを彼女に伝えただけ事件の真相を解き明かしてしまったのだ。小説の主人公にそのような人物がいたようだが、そのたぐいの本を一切読まない種田には正確な情報を持ちあわせていない。種田が読む本といえば、図鑑や伝記からはじまり、百科事典に辞書に続く。教科書などの学習書といえばどれも面白い箇所はそっくり削除されていたから、教科書も見限った。新たに感動や期待を求める書物は姿を消したのだと。以来、自らで考えそれを体現することに力を注いできた。だが、能力は持って生まれた才能が幅を利かせる時代、努力なんてものは一心に好奇を目的に注力する人体の力が必要不可欠であって、これもまた才能として生まれながらに持ち合わせているものだ。私にもその一端が垣間見える時があるが、生活支障をきたす恐れがあるために普段は表に出ないように力をとどめている。その能力を駆使していた私でも解けない事件をあの女は解いたのだ。彼女を敵視しているのではない、不甲斐ない私自身への侮蔑なのだ。
 こうやって、たまに本性を表す私がいる。誰にでも似たような経験があるだろう。普段は抑えていた感情が時に噴出してしまうのだ。しかし、だいぶコントロールはうまくなったように思う。だって、もっと前の私ならば人とは一緒に入れなかったのだから。怖いのではない、理解されないのだとわかっているから、こちらから線を引いているだけ。寄ってたかっての行動は次から次へとで人格が変わるとさえ、人は思ってしまう。それ以外に理解のしようがないからかだ。でも、違う、どれも私で今の状況ではこの人格がたとえ凶暴であっても真実のみを話すのだとしたら表に出してしまうのだ。
 彼女はこれをどう対処してあのような頭脳をとりこんだのだ?
 人の生き死にを経験したのか?
 高所への視点移動で人の存在は米粒になり、こちらに向かって歩いてくる人がだれでなにものであるかの区別すらつかないのだとしたらそれはただの点でしかない。同じものなのに見る場所によって違いが生まれるのは、私が思う世界で世界は成立する。
 世界って私でできているのか?
 製作者も映像監督もディレクターも音声も編集も、そしてお客も私。
 今日が昨日よりも暑いのは、比べているから。
 今日が私、体験初日であったらな、暑いとは感じない。

 何を考えていたのか、そうだ。事件だ。銀行強盗と、……殺人には関連が見られると熊田は言っている。
 関連……。飢餓状態からの美味しそうな食事の提供で、人は食物にありつく。
 たしか、銀行強盗はそうであった。
殺人は?……、新たな殺人によって一つ前の事件が疎かになった。しかし、新しい事件にだけ飛びついていたのではない。いや、事件の担当者には当初の予定では私と熊田さん、と鈴木さんの3名。二件、三件目になってようやく人員の補充が見込まれた。
 早手亜矢子、重田さち、早手美咲、屋根田、三件目の被害者、佐田あさ美、警官。
 体が揺れる、自然とシャッターを下ろしていた瞼を開いてみる。
「お前、大丈夫か?」張り出したお腹がぼんやりと座る種田の目の高さに入る。相田が横に立って、種田の肩を揺すっていたのだ。