コンテナガレージ

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水中では動きが鈍る 2-6

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「……上にも下に横にも斜めにも人がいるのが嫌なんだ。わがままといえばそれまでだが、無駄な挨拶や気遣い、配慮がどうも体に合わない」
「社会ってのは、たいていそういうものですよ」相田がきっぱりと切って捨てた。そこには同意も含まれていたかもしれない。
「そうかもな」
「なんか、空気が重くなりましたね」
二酸化炭素が増えたからでしょうね、窓を開けたら軽くなります」種田は相田とは異質の吐き捨て。
 追いかける車両はスタートと同時に白煙を上げて左に曲がった。リアクションをとって熊田も機敏に反応する。二車線の右側を走行する別班車両は追従できずに、まっすぐ交差点を通過していった。
 スイッチを切っていた無線を種田が入れる。車は急なハンドル操作で後部座席の二人は左右に一回ずつ体を振られた。
 車は高台の高架下にそって進む。グングン、スピードが増す。追いすがる熊田の車両。
 距離は20メートル前後。雑音に混じり、車両を見失ったとの報告。
 右へ曲がる。熊田もそれに習う。住宅街を疾走。十字路の一時停止を無視して直進を続ける。熊田も遅れないようにしながら、角では速度を緩めて最悪の事態に備えた急ハンドルの操作に備える。
 タイヤの摩擦音。車は右に曲がり、線路沿いを走行。
 一拍遅れての追走。熊田のひたいに汗がにじむ。
 種田はしっかりと天井の取っ手を力いっぱい掴んでいる。鈴木、相田の両名も息を止めてドアの持ち手を掴んで離さない。
「この先の道はどうなっている?」種田が携帯で地図を表示させた。
「行き止まりです」
「よし」熊田がにやりと笑を浮かべた瞬間、前方の車両が急ブレーキで停車するとバックで近づいてくる。
「あああああーまずいですよ、ぶつかります」鈴木が慌てふためく。
「見えない、どけ、間を空けろ」体をねじり、フルブレーキからのバック。車は5メートルにまで迫る。