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水中では動きが鈍る 3-1

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 夕刻の住宅からは夕食の匂いが換気口を伝って外部に漏れ出していく。日はすっかり暮れて、突然のカーチェイスから一転して白バイの登場は急展開で終幕。数分遅れでやっと別班の捜査員たちの車両が到着したが、まだ白バイが現れた詳細な説明は誰からももたらされずに淡々と逃走と暴走の警官に連行が進行していく。
 警官は主張する。「交通違反に大層な面々が揃っているじゃないか。どうしてですか?教えて下さいよ」口を開き、両脇を抱えた捜査員に対して悪びれる態度を微塵もみせずに言い放っていた。かくいう、種田もそれには同意見であった。納得の行く説明を求めているのはここで呆然と立ち尽くしている4名の刑事たちに共通していえること。
「白バイって、何かのパトロールの最中だったんですかね?」鈴木はぽかんと口を開けて話し始めた。
「さあ、ただピンポイントで登場したよな?ずっとついてきていたのか?」ようやく相田一人が後部座席のドアを閉めた。住宅からは騒然となった現場を眺める二階からの顔が餌を待つひな鳥のようにいくつか覗いていた。
「しかし、警官が逃走した理由がわかりませんね。なにか隠し持っていたのでしょうか?でもそれも、おとなしく家に帰ればこうやって調べられなかった……」種田も遅れてドアを締める。バタンと音が鳴り響く。
「あいつに聞けば全て判明するさ」熊田は高原のおいしい空気を吸うように煙を吸う。
 倒れた白いバイク。
 フロントタイヤが宙に浮いた車。
 種田は現場の様子を写真のように克明に脳内に記憶した。
 すっきりとしない感覚が体内を支配しているのはなぜだろうか。
 突然の出来事にまだ対応しきれない箇所が存在するのだろうか。
 空気が冷たくで気持ちいい。
 カラカラと白バイのタイヤが空を目指して動力の名残で回転を楽しんでいた。
 警官の身柄は署へと移送された。アスファルトにはタイヤの跡がくっきりと残る。事件は解決したのだろうか、モヤモヤの疑問を抱えながら熊田たちは行きとは正反対の安全運転で帰路についた。
 暴走した警官の取り調べは、熊田には伝えられずにいたが喫煙室で署員が話す内容を総合するとだいたいこのような道筋だろう。鑑識の神からもそれとなく情報は伝わってくる。