コンテナガレージ

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水中では動きが鈍る 3-9

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「不可能だと認めることも時には必要だ。ないことを嘆いても充足感は満たされない。否定はさらなる否定を増加させる。きっぱりと別れてしまったほうが楽なんだよ」
「諦めですよ、それは。現実に……」
「目をそらすな、しっかりと見つめろ!」熊田が言いかけた種田を遮る。「警察の絶対性が奢りや昂ぶりを増長させるんだ。俺もお前も人だ。間違いや見落としは必ずあるし、思慮の足りなさも集団になればなるほど深刻化する。トップの意見が全てで忌憚のない意見を部下に言わせるような上司なんてものはどこにもいないのさ。わかるだろう?余った補う場所が例え一般市民だろうと関係ない。スラスラと事件を解いてくれるのなら、それで十分だ。それ以上でも以下でもない」張り上げた声に驚いたわけではなかったが、熊田が怒号のような声を出せることが新鮮だったと同時にまたしても以前の質問の答えと同義の意味合いを持つ熊田の意見をつきつけられた。分かっているのだ、種田は軽く目を伏せて思う。ただ、どうしてもあの人にだけは頼ってほしくはない。
 私よりも頭脳が明晰だから?
 そうではない……。
 なんとか自分だけ完遂したかった。
 頼るべき存在のなんとも冷酷なことにいつも出くわしていたから、頼るすべは己だけと決めていた。
 囁かれた薄ら笑いの引きつった頬、青ざめた唇、鋭く尖った真っ黒な瞳。
 不信感が私を形作る。
 要らない、欲しかったのは私自身で見いだせる、そう確信してきた。
 だから、人は頼らない。ないものは、すべて習得した。
 いらないと判断の下ったものはたやすく切り捨てた。
 だって持っていても重いだけであるし、次の登場機会がいつになるか分からないから。
 取り入れてみようか、と感じる。幾度と無く頻繁に近頃は同じ現象が表れては消える。
 いらないのならば、また捨てれば良いのだ。それだけのこと、何を敏感に怯えているか。
 煙草の煙が風に流されて、室内よりも風の影響でタバコが灰へと廃退する速度が早まっている。熊田は種田の行動を待った、本当ならさっさと話を切り上げて立ち去っても特にお咎めは受けないのに。
「車内でそのままタバコを吸ってもいても怒りませんから、私も一緒に行きます」種田にとってそれが精一杯の返答であった。熊田以外が聞いたならただの意地っ張りの言葉にしか受け取れられないだろうが、熊田は短く笑って種田に、早く乗れと同情を許可したのであった。