コンテナガレージ

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水中では動きが鈍る 4-1

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 日暮れ時、喫茶店アスファルトにほんのりと赤の模様。絶命寸前の輝きも雲に覆われてしまっていた。二人は店へと入っていく。入口の引き戸にちょこんと地べたに張り付いていたトラ柄の猫がひょいと首を向けたが、威嚇もせずごきげんも取らない。目を見合わせただけ。
「いらっしゃい」男性の声で迎えられた。店長、あるいはマスターと呼ばれるその人が入口正面のレジでお客を出迎える。先頭の熊田が奥へ進む一方それとなく店内の気配を探った。一階のカウンター及びテーブル席は空席。
 いつものように熊田は二人分のコーヒーを注文する。お目当ての美弥都はカウンターでグラスを拭いていた。二人の刑事にいらっしゃいませの声はかけず、ほんの僅かな上体の前傾により無言でも失礼のない仕草でやり過ごす。美弥都は注文を聞くと、手にしていたグラスを置きコーヒーを作り始めた。店長が寄ってきたが軽く手をかざして行動を制した、おそらく私一人で十分だというのだろう。種田は落ちついているようだ、熊田にはここまでの車中でもいつもの種田に戻ったように感じていたからである。許可されたタバコは一本だけ吸った。二本目を吸い、不必要さを滲ませた気遣いや詮索で疲弊するのは無駄に思えてきた。喫茶店では種田の許可を取らなくともタバコを吸う権利は与えられているのだと半ば強引に意見を既決した。