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水中では動きが鈍る 4-2

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 そのような思いと対を成して、日井田美弥都に事件についてどう切り出そうかを思いあぐねていた。かくいう、自分は口下手である。刑事としてはマイナスと思われるが仕事の大半は相手が話している状態が常である。勝手に上着のタバコに手が伸びる。熊田の動きに反応して種田が灰皿を熊田に寄せた。種田を見やる。相変わらずの黙秘だ。ついてくるのだから、それなりの戦力にはなると踏んでいたのだが、だんまりが続けば自分一人で乗り込むしかない。コーヒーが作られるまでひと通り事件を振り返ってみた。これで二度目。四度目の殺人はまだ起きていない。または起きていることすら知らないだけかもしれない。後者の可能性は十二分にある。共通する被害者同士の関連性が浮かんでこないのは犯人が同一犯でない、あるいは被害者はランダムに選ばれているかのどちらかだろう。よく連続殺人犯をプロファイリングで追い込む場合に殺害場所や殺害方法から犯人像や住まい、勤め先、自由な時間等を予測するが、しかし今回の事件はなにか一筋縄ではいかない、不透明な薄い膜が張られているように感じていた。殺害への執着や用意周到性もなく、死体の行き場所も発見を恐れてはいない。三件とも、死体の処理に失敗したとは考えにくいだろう。つまりは、死体ははじめから見つかるように、見つかっても構わない思いで現場に放置、遺棄してきたのだ。まずもって、計画な殺人はそうそう発生しない。殺害後にあれこれと細工するのが殺人事件の大半ではじめから殺そうと考える者たちによる犯行は、おそらくは未だに明るみは出ない。つまりは、事件としては扱われていない。
 匂いが近づいてきた。美弥都のほっそりとした白い腕が視界に入る。「ごゆっくり、どうぞ」こちらがはっとする綺麗なほほ笑みで美弥都がコーヒーを運んだ。