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水中では動きが鈍る 4-8

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「そう、殺人はそれを口外しようとしたために行われたのです。しかし、よりによって犯行のリークは一人には留まらず、二人目も口外に踏み切ろうとしたため、その前に殺害された」
「一人目の事件では身元を示す持ち物が持ち去られていました。しかし、二人目の事件では所持品は持ち去られていません」疑問を呈して論理の破綻を狙う種田が言う。
「幾つかの可能性が警察には浮かんだでしょう。一つは、一件目と二件目には繋がりがあり、犯人が同一。もう一つは、二件の事件は別人による犯行。さらにもう一つは、もっとも可能性が低い自殺。これらによって、事件があたかも犯人が未だに生きていて次の犯行を企てていると思わされた。いいですか、一件目の犯人は二件目の被害者であり、二件目の被害者は三件目の犯人です。捜査しても見つからな理由はそもそも犯人がすでに亡くなっている状態で探していたんですから当然のことです。その後、銀行内部で自作自演の強盗劇を演じてお金が取られたように偽装した。すでにお金は別の日に移動させていたので、警察が調べても当然にお金はありません。発見された空のバッグとドアの1万円札も銀行の物ですから、すべて辻褄が合います」
「被害者は銀行員ではありません。口外リスクの高い部外者を仲間に入れたなんて信じられません」種田は左右に首を振って、ありえないと呟いてる。
「殺すために仲間に引き入れたのです。犯行の証拠や手がかりがまったく表に出ないと警察はいずれ銀行に疑いを持つでしょう、犯人とグルだったのではないのかと。その時のために強盗犯と一致する人数と証拠を持たせ、3人を殺害すれば強盗に結びつけて警察は捜査を行うと、考えていたのでしょうね」しばらくの沈黙、それぞれに思うところがあり、言葉、いわゆる会話の瞬間的な思いつきの物言いとは違い、論理的な言葉の羅列を持ち出すための静かな時間。 
 会話を再開させたのは美弥都であった。
「ただ、問題は最後に殺害された方です。なにやら不可思議な状態で発見されたそうですね」
「……ええ、そうなんです。エンジンオイル、使用済みのエンジンオイルが遺体にはかけられていました」
「その方の身元は?」
「それがまだ分かっていなのです」抑え声音で熊田がこたえた。
「また焦らすつもりかもしれないわ」
「焦らす?」
「発見された逃走車と同様の作用です。乾ききった後の水のほうが給水後のお水より美味しいでしょうし、多少温くても文句は言わないもの。銀行員を見張っていたらいいわ」