コンテナガレージ

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空気の渦は回転する車輪のよう 1-5

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 それに、種田は自分たちの価値を平等に保障しようとする。自分にとってはどうだろうか、どれもこれも同じにしか見えないし、映らないだろう。事件の解決が警察の総意。これが満たされれるのなら他人からは犠牲と映っても着地点は普遍なのだ。一連の事件を吐露した元銀行員からもたらされた真意を自分は理解できる、否できてしまうと言ったほうが正しいだろう。たぶん、彼らは過ぎていく日々に取り込まれてしまい、自分の存在を世間の常識で埋め固めてしまったのだ。流れない水は澱み、徐々に腐り悪臭を放ち、内部から体、そして精神を蝕ばむ。彼が言った空気に粘りがあるとはまさに流れない彼内部、本心の停滞だと察する。その結果、自分が動けないのなら周りが動けば良いと判断したのだろう、強盗と殺人によって世間と彼の周辺が高速を帯びて流れ始める。
 流れは早く本流に乗せられるともう取り返しの付かない、激流とクリフの急降下。 
 これも望んだのだろう。
 頑丈な外側を打ち壊すべき手段として今まで操作されてきた外部を選び利用した。
 結果として彼は捕まりもうおそらくは五体満足な体では世の中に出て来られないであろうが、それも彼には世間と離れるための十分過ぎる剥離である。
 果たして彼は自分を取り戻せるのか?
 それよりも自分はどうなのだ?仲良く内と距離をはかっている場合か?
 最近は内との入れ替えも随分と上手になった。創りあげてきた幻想は日毎に威力を殺して私が望む世界の建設に回されている。欲しい物もない、食べたい物や行きたい場所、話したい相手、打ち込める趣味などはすべて私の一部であるとわかったしまったのだから。しかし、まだ本来の自分には到達していない。時折、変化に抗うように裏と表の感情がひっくり返されてしまう。でも、それも私なんだと思えればニヤけるぐらいに日々はおもしろく、愉快だ。
 駐車場の猫が車のボンネットにふわりと乗り、そのまま軽く足踏みをして丸くうずくまった。あいつには勝てないなあと、熊田がニヤリと微笑浮かべる。手元のグラスがほんのりと汗を掻き始め、氷の溶けた液面にはうっすらとコヒーの上に水膜が張り出していた。灰皿を叩き、灰を落とす。グラスを傾け、氷が鳴る。一気に1/3ほど飲み干し、煙のコンボ。
「タバコと肺がんの因果関係を見出そうとするのはナンセンスです」種田が宙にに浮かぶ白い煙を見上げてポツリと呟く。「どうせ、内心で肺がんの恐怖やタバコのリスクを隠していたのでしょう、病気はこれが表面化したものです。受動喫煙も同様です。体に悪影響だと主張するうちに病気を認識したのです」
「何だ、突然。医者にでもなったつもりか?」熊田は体を起こして応える。
「私がタバコを嫌う理由が受動喫煙にはじまる肺がんとの関係を信じているわけではないと言いたかったのです」
「満足か?」
「はい。ご理解いただけたのなら」種田のいびつな感情の引き出しが熊谷は心地よくそして懐かしく感じた。そこに自分も長い間住んでいた痕跡がいまだに熊田をつついてくるのだ。理解される可能性を秘めた人物としか会話をしない自分も取り残されているだろう、いやもう消えているかもしれない。それでも、私が通過したのは事実でありだからこそいまの自分がこうやって高みの見物で眺めていられるのだ。
 自分の羽は細かな凸凹がないと飛べないのか、それとも大きく厚みのある羽が適しているのか。
 実はまだよく分かっていない。
 いずれは犯人のように細かな凹凸を刻むのかも。                    おわり