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プロローグ 1-2

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 泣いた。
 親が慌てて駆けつける、隣のウィルもびくりと躰を震わせてこちらを睨んだ。私は親の手に包まれた。躰が強く締め付けられて痛い。しかし、言葉が通じない。
 親の指先に操られて私は鳴動をやめた。時間が経てば自然と泣き止むのに何をそんなに慌てるのだろうか。
 だが親との共同生活が続くにつれて私は色々と知識を持った。元々持っていたのであるが、いまいち私を把握しきれていなかったため理解までにタイムラグが生じたのだ。もう私は答えが出せる。ただし、声は未だに使用不可。機能は備わっているのに利用を制限されている。

 年が明けた一月一日。私は親に連れられて方々へ引きずり回された。そのため、夕方には眠りに落ちてしまったらしい。自分でも意識を失うときの記憶がまったくない。目が覚めたらいつもの部屋のいつもの場所。窮屈に押し込まれていた。外では私と似たような者たちに出くわした。皆、だいたい姿形は同様で、まったく同じ奴もいた。だれもが親に付き添ってもらい一人で来ているものは一人もいなく、単独での行動は難しいのかと、記憶の片隅に貼り付ける。
 ガヤガヤと煩いレストランでは、いろいろな人に触られた。親の友人たちだ。覗き込み、触り、指先でつついてみたり、両手で肌の感触を確かめたりと弄ばれている気分だった。お酒というアルコールを含んだ飲み物で友人の気分は高揚し、私は一度ふらついた人が倒したグラスで頭から水をかぶってしまう。慌てて、親が体を拭いてくれる。その横で水を掛けた人は丁寧に親にだけ謝っていた。私には謝罪の言葉はない。
 その店から立ち去る前に親たちは連絡先の交換をしていた。片手には私が抱えられている。見えない相手との他愛もないやり取り、現実と仮想空間とのせめぎ合い。
 親に連れられて場所を移す。どうやら私の服を選んでくれるようだがもちろん私に選択権はなく、まして意見を聞かれもしないから、諦めて見てみないふりを続けた。時々明るい場所に出る。目がくらむがすぐに慣れる、もういつものことである。無造作に顔を拭かれ、また顔のまわりに布が被された。外が寒いからだろうか。一月。位置情報、緯度からここは日本列島の北に位置する。降雪を記録する日々が続いている。親は何度か雪景色の町並みを撮影していた。室内で発熱した私の躰に降りかかる雪は心地よかった。