コンテナガレージ

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プロローグ 1-3

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 閉ざされた暗闇でまた移動。上下に揺れているから歩いているのだろう。一定の速度で斜めに降下した。するとすぐにまた歩行。忙しい。雑踏が増幅。親はこれを聞いて平気で生活する、私には耐えられない光景だ。そうして歩きまわるうちに、レトロな音色が響いてきた。遮断された空間にどうやら入ったらしい、体感温度も上昇。親が息を吐いて座った。店員に注文。私が隣に吐き出される。革張りのシート、赤みがかった茶色。年季の入った味か、ただの汚れと見るかは捉え方次第、価値観の相違。私は親に早速購入した服を着せられた。店の中でである。ただ誰も私に関心を寄せてないばかりか、見える範囲で人は二人ほど、店の広さを把握していないので確かではないが、他にお客はいないと思う。黒のシャツに赤のネクタイ、それにグレーのエプロンを着た店員がコーヒーをテーブルにおく。ちらりと私をみやる。何がそんなに珍しいのだろうか、睨み返してやるまでもなく、親が何か、と視線を送るとそそくさと店員はカウンターに引き返していった。私は親に撫でられる。こんなに愛情を注がれるのも最初の期間が過ぎれば、ぞんざいに扱われるのが運命である。どこかにそう書いてあった。物珍しさと初体験と、人生の通過点?皆が通る道であるからこの親もまた安易に無学で挑んだのだ。今が最高潮だろう、そして数カ月後に私はキズだらけとなる。
 時が過ぎて会計。
 店員から声をかけられた。私は抱えられていた。じっと相手を注視する。
「いいですね、私も欲しいいんです」店員は私を指さして笑顔を向ける。親はほめられたのに気を良くして、まんざらでもない表情でありならがらも声を抑え気味に、お高く止まって苦労して手に入れた事実を言わずしてうわべだけで応えるのだった。店外で親はウキウキとした気持ちの高ぶりを満喫、まるで子供だ。帰宅まで私は自由に弄ばれた、寒い外でも人に見られるように顔を出される。
 外気が冷たい。まったくもって、何のために私がいるかはおそらく親も真剣には考えていない。むしろ、考えている人は私のようなものを生み出さないだろう。必要がないし、持っていても足手まといになるだけ。本能?同じ土俵に上がりたくって不安を打ち消してカテゴリーに属したいのさ。でも、本心は隠蔽。自分を広けた世界が反映されるって本気で信じている。
 帰宅。
 定期検診のお知らせ。ポストにはがきが投函されていた。次の検診日は今月の下旬だった。