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ソール、インソール プロローグ 2

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「ねえ知ってる?検診っ定期的に受けないと駄目なんだって」親の友人が遊びに来ている。その友人がお茶を飲んで聞きかじりの情報を親に伝えている。本心で心配はしていない、ただ又聞きの情報を話したいだけのことで、自分の欲求を満たす媒体としての友人関係とでも言えばいいだろうか。二人の会話を聞いているとどちらも自分の話しかしていなくて、キャッチボールが不成立でまったくの見当違い、別々の球場でそれも外野フェンスに向かってボールを投げているようにかし映らない、私はそう感じた。
「嘘!私、何にも聞いてない。どうすればいいの?」親は詳細を尋ねた。
「う~んと私もね、あんまり詳しくは知らないんだけど、ほら送られてきたハガキのとおりにすれば、まず不具合が生じたりはしないんじゃあないかなあ、よくわかんなけど」
「何によ、脅しといて頼りないっ」
「だって私が調べたわけじゃないしね」友人が掌を上に向けた。
「初めてだから心配……」親はうつむいた。窓際の私と目が合う。猫がその間を遮り、居づらそうに家の中を徘徊。お客が来て落ち着かないみたい。
「そんなの大丈夫だって、みんなだって初めはそうなんだからさ。私だってそうだよ」
「いつも脳天気なくせに」
「私だってさ、落ち込む時はどーんとこう深く深く沈んじゃうことだってあるんだから」
「信用できない」
「あんたはさあ、もっとこう明るくできんのかね、お嬢様?」
「その呼び方やめてよ、いつから金持ちキャラが定着したのわけ?」
「だって実際お金持ちでしょう実家は?バレエを習ってピアノが家にあって、等身大?の犬の置物があればお嬢様でしょうが」友人はわざと頬をふくらませて主張した。
「だってしかたないじゃんか、家の経済状況を見極めてなんて生まれてこれないもの。それを言えば、大学生で一人暮らしを堪能した、あんたん家だって富裕層だろうが」
「レベルが違うのうちとあんたんとこじゃあ。もうね、最新のブランドバッグと型落ちの中古品ぐらいの差」
「ブランド品はブランド品なんだ」
「見くびるなよ、いつかこっちだって高層マンションに住んでやるんだから」
「高いのがそんなにいいの?あんまり憧れないんだけど私」ここは鳥だってめったに飛んでこない高さ。地上六十三メートル。
「生活の質が上がるっていうの?そこに住んでいるだけで一段レベルアップしたって感じるのよ」友人はことさら裕福な親の生活水準に憧れを抱く。
「ふーん」
「あんたはお嬢様だからね、生まれた時から与えられ続けてほしいものは全部手に入ったんでしょう、だからね貧乏人の気持ちなんてわからないのよ」
「そりゃあそうだけど」
 呆れて友人が言う。「否定しないなんてあんたぐらいだよ。私以外の前でそんな事言ったら嫌われるんだから」
「友達のふりをした奴なんて近くにいても気を使うだけ」
「クールね」
「旅行に行ってもおみやげを買う手間が省けていいじゃない?みんなのため友達のためとか言ってるけど、結局はよく思われたい自分のためでしょう、見栄を張るのは好きじゃあないから」
「男っぽいというか、ドライというかなんというか。モテないわけだよ」
「またその話、もうかんべんしてよ」
「彼氏ほしくないの?」
「欲しくない」
「干からびてる」
「好きな人ならできてもいいけどね」
「同じじゃないのさ」
「私の恋人はあの子だけ」熱烈なる視線で私は石になりそう。
「すぐに飽きるよ」頬杖をついて友人は辛辣な言葉を述べる。
「捨てたりなんかするもんですか。だって、やっと手に入れたかけがえのない私専用の私だけのものなんだから」
「見ものだね」