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ワタシハココニイル1-2

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「聞かなかったことにします」相田は聞き流す。彼は不要な仕事を取り組む姿勢を嫌う。安全を見込んだ実力と経験値を踏まえた行動パターンが特徴である。及び腰というニュアンスは当てはまらないだろう。危険察知能力に長けている、これがしっくりと当てはまる。ただし、彼のその本心を見抜く人物はおそらくはほとんど、いやまったくいない。厄介者の相田を取り敢えずこの部署に所属させている事実が何よりの証明である。ひた隠しにした能力はいつ発揮されるのか、熊田にとっては見もの、楽しみの一つであった。
「私が行きましょうか?」種田はつま先に雪を乗せたブーツを一歩前に、熊田に進言した。
「いいや、いい。応援の要請があれば誰かを行かせる」ここは組織になじまない人員を集めた部署で、回ってくる仕事は緊急時の人員追加やおよそ仕事とは呼べない制服警官でも事足りる雑務に応対するべく常時を勤務が命じられている。彼らが嫌気が差して仕事を辞めたりしないのは、単にそれ以上に居心地が良いからだろう。熊田にも言えることだ。ほとんどの場合、捜査の指揮は管理職が執るため、スタンドプレイはご法度であるが、ここでは監視も行き届かなく悠々と指示された捜査を執り行えてしまえるのだ。更に、彼らは仕事をきっちりとこなし失敗と呼べる失敗は現在まで、つまりこの人員編成に変更してからは上層部の要求には非の打ち所のない結果をもたらしていた。それでも、組織に馴染まない人材であることに変わりはなくて、依然として昇格や他部署への異動などは一切行われておらず、人としての最低限の扱いで警察に飼われている状態であった。
 先ほどの話題に登場した部長は、その存在意義を清掃員にまで問われているほど姿を見せていない。秘密裏に捜査を担当している事実は鈴木や相田への捜査指示で確認されてはいたが、部長自身が何者に指示を仰いでいるのかを二人には明かしていない。可能性としては、公安に警察内部の調査を任さているという見解と他の組織からのスパイ、この2つがあげられる。しかし、当の本人が捕まらないためにばったり部長と出くわしても世間話から仕事、更に込み入った会話までにこぎつけた者は誰一人としていなかった。部長に出会えばそれだけで舞い上がり、ここ数週間の動向を聞きだすだけで脳は満足してしまう。部長と別れてから踏み込んだ質問の欠落を思い出し悔しがるのが大半である。
 鈴木はそんな間柄の部長からの指示に従い、ある自動車会社を調べていた。これはアウトレットモールで死亡した女性の事件に絡んだ捜査の継続でもある。
「なんでまた捜査を再開したんだろうか」相田が太い腕を組んで呟いた。「熊田さん、知りません?」
「……ん?なにか言ったか?」一点を見つめる熊田は相田の質問に遅れて問い返す。
「鈴木の捜査は、今になって再開されたのはおかしいと思うんですよ」
「どこがだ?」
 こちらが質問をしているのだから、内容についての解答を持ち合わせていないことぐらいわかるのではないかと、相田は思ってしまったが、考えなしに質問で疑問を解消しようとした自分を改め、再検討を試みた。「まず……、捜査は打ち切られています。事件への関与が疑われた犯人は逮捕されました。いくつか不可解な点が残されましたがそれでも事件の収束を認めざるを得なく、捜査の継続は終焉に追い込まれた。……鈴木は未解決の部分を再度洗っていると考えるのが妥当でしょうが、二次的な被害や類似事件への発生は否定されたのだから新たな何らかの証拠か情報がもたらされたのかも知れません。いずれにしても、この部署に捜査の依頼があるということはそれほど信頼に乏しいソースなんでしょうがね」