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ワタシハココニイル2-2

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「エンビーという車で引き起こされた交通事故と、鈴木さんは言っていました。調べますか?」種田が腰をすでに浮かせている。
「二、三年以内の事故だ」種田は聞き終わると部屋を出た。資料を取りに行ったらしい。まだ、表向きは継続中の捜査であるために、捜査資料は別部署が管理。PCからのアクセスは制限されている。
「やっと仕事ですかね」相田がため息を混ぜてデスクに言葉を吐く。
「暇な方が良かったんじゃあないのか?」熊田は立ち上がる、ぐぐっと背を伸ばして凝り固まった筋肉を弛緩させる。「休憩してくる」
「私も行きます」
 二人は廊下に出て喫煙室に移動した。ブース内には先客がいたが、熊田たちと入れ替わりで出ていった。
「禁煙したらどうやって休憩するんですかねえ」相田は吹雪く外の世界を見やって熊田に言った。
「勤務時間内で一日五本のタバコを吸ったとして一本につき五分と換算すれば二十五分、これを昼食の休憩時間と合わせると食後に一眠りできるぐらいの計算になる。休憩場所と仕事の内容によっては実現が不可能だ」
「そもそも割り当てられる仕事が目に見える形として分けられないので、ここでなんかは無理でしょうね」
「変わりつつあるが、日本で分業制は向かない。個別の仕事の上には所属のグループがあり、その上には更に大きなくくりがある。自分の仕事だけに心血を注いだ所で手が空いたら他の手伝いを任される。どうみたって、人一倍仕事ができてしまう人間が損をする仕組みだ」
「熊田さん、サラリーマンでもやっていたみたいな口ぶりですね」
「やっていないとはいっていない」
「やっていたんですかあ!?」
「やっていない」
「何だ、脅かさないで下さい。その顔で冗談を言われたら信じてしまいますよ」
オオカミ少年とは反対か」
「ああ、イソップ童話でしたっけ?普段は嘘ばかりついているやつですね。嘘が日常になって真実が嘘になるっていう」
「デフォルトの状態がどちらにあるかで表か裏は変わってくるんだろうな」息を吸っても熊田が指で挟むタバコの先は赤く光らない、タバコの途中で紙が切れて茶色の細かな葉が覗いていた。
 熊田は廊下、喫煙室前を通過する事務の女性に合図を送るとブースの外で話し込む、右手指に折れたタバコ。女性に話しかけるところを相田は見た試しがなかった。
「食事の誘いですか?」戻る熊田に聞いてみた相田である。
「いいや、テープを借りた、いやもらったんだ。このタバコを捨てるのがもったいなくてね」