コンテナガレージ

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ワタシハココニイル3-1

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 M社から聞いたリコールの主の元へ、鈴木は車を走らせた。

 ちらついた雪がワイパーの隙間をかいくぐりフロントガラスの熱で消滅、再度の付着を幾度となく表現していた。国道を走り、道なりにタイヤを転がすこと約十分。渋滞に巻き込まれずに進路を変え坂道を進む。滑りやすい坂それに細い住宅街では運転に慎重さが求められる。

 鈴木は慣れ始めた雪上の感触を探るように一定のスピードを保って上り坂を走行した。ナビは一応、申し訳程度の型落ちタイプがダッシュボードとメーター類のパネルに挟まれて鎮座する。先程から目的地周辺の音声が山びこのようにこだましていた。ナビは周辺の地図を表示していても、鈴木が求める場所は視野に入らない。開発の始まった新興住宅地でもないのに道路や地形が変わったりするものだろうか、鈴木は首をひねった。

 山沿い、斜面を切り崩して建てられた住宅街は思いがけなく道を寸断する。鈴木は更に奥の坂道と左への平行な道に差し掛かった。正面はクリーム色の外壁が目立つ一軒家と左にかろうじて道が見えた。しかし、その先が行き止まりということは大いに有り得る。この道幅のUターンを想像して、鈴木は左折した。後続車なし、通行人が一人足元を確かめつつ慎重に鈴木の車の脇を下っていった。

 徐行で前かがみになり目的地を捜索。ただし、住宅の表札はローマ字であったり、玄関口まで近寄らないと視認できないぐらいの字の大きさであったり、または表札自体取り付けていない家もあってなかなか見つけにくい。ナビは地図の表示だけを残し、ルート案内を停止させた。

 前方に突き当り、右に曲がるとトンネル、高速道路の高架。左は下り坂。進路に迷っていると後方からクラクションで先を急がされた。軽自動車が張り付いている。実際の大きさよりも数倍大きく感じる。とりあえず、トンネルに進路を取って暗黒をくぐり抜ければ左手にはもう人工物がなく、雪の白とフェンスのシルバーそれに植物の茶色い表皮だけが空間にひしめき合う。右手はかろうじて不規則な間隔で家が三軒。道路脇に車を止めた、ミラーで後方を確認、車はなし。ゴミ捨て場の近くに標識が立っていて、"この先、通行止め"の文字。先に道は続いているが、公共の管轄下もしくは個人の所有地なのだろう、サイドブレーキを引いて鈴木はタバコに火をつけた。窓を数ミリ下ろす、外から雪を削る音が聞こえる。家が見つからないのはナビのせいか、またはM社の資料がそもそも間違っていたとも考えられる。しかしそれでは納車の時はどこへ車を届けたのか。勤務先か。直接、ディーラーに取りに行ったか。

 ぼんやり休憩をとっていると車が一台、坂を上がって鈴木の視界に入る。車はM社製で車種も鈴木が探している人物のそれと該当する。その車は三軒の内の真ん中に駐車、エンジン音が消える。男が降りてきた。助手席に手を伸ばした手元には皮の手提げかばん。ジャケットを着ているがネクタイはしていない。コートもビジネスに適応したスタイルである。確証はないが自分の勘を信じて鈴木は、車を降りる。その男に声を掛けた。

「不来さんですか?」男は訝しげに振り向き鈴木を眺める。車がロックされて電子音とライトの明滅。

「そうですが、誰あんた?」仕事を離れると途端に横柄、ぶっきらぼうな態度を表す人種。人に上げへつらって仕事しているのだからおサービスを受ける側に成り代わればそれ相応の態度でも構わないだろう、という言い訳がよく聞かれる。警察沙汰になる人物の大半は、料金を支払う代わりに人から受けたストレスを発散させている。

 この人もその部類に入るだろうか、鈴木の初対面の印象をうっすらと刻んだ。