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ワタシハココニイル3-2

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「警察の者です」

「不来は私ですが、人違いではありませんか?」不来は驚くどころかこちらに質問を返してきた。頭の切り替えは悪くない。鈴木は家を指さす。

「ご自宅ですか?」

「ええ、まあ。それで何のご用です?犯罪に手を染めた覚えはありませんと先にいっておきます」

「購入された車についてお聞きしたいだけで、不来さんを捕まえに来たわけではありませんからご安心下さい」

 不来は時計を見て、欠伸をかみ殺した。「失礼、なにぶん徹夜だったもので。ここではなんですから、どうぞ中へ」

「では失礼します」

 室内は冷えきり暖房の出番。その存在を鈴木が感じたのは退出間際で、今はまだ風が遮断されたただの寒い場所だ。床のレトロなストーブに電源を入れる不来は鈴木に座るように、それと今すぐコーヒーを淹れると伝えた。

「あのお、構いなく、すぐに帰りますから」

「コーヒーは飲めませんか?」ダイニングキッチン、釣戸棚とカウンターの空間、上半身だけ覗かせる不来が飲み物の好みをきいた。それはつまり、数種類の選択肢が用意されていると鈴木は推測する。コーヒー、紅茶、お茶にココア、ハーブーティも可能性としてはありうるだろう。洒落たインテイリアと対面して派生した想像である。

「いいえ、割りと好きな方です」最初の印象は消えて鈴木は不来に社交的な雰囲気を追加せざるを得なかった。不来のそれは警察と意識しての行動変化かもしれない。ただ、タバコを吸っていた鈴木にコーヒーの誘惑は抜群のタイミンだった。断る理由はない。見たところ、不来も嗜好品を好んで摂取する傾向にあるようでそれは漂ってくる挽いた豆の香りに起因する。

 鈍い緑色のストーブがほのかに熱を持ち始める。鈴木はリビングでソファに腰かけている。中央にテーブルと一人用の革張りの椅子。

「どうぞ」挽きたての豆で淹れたコーヒーが運ばれる。

「いただきます」

 一人掛け椅子に座り足を組んで不来は尋ねる。「私に聞きたいというのはどのようなことでしょうか?」

「車を何度も修理に出していますね?」鈴木は押し迫るように本題を突き出した。相手の反応でおおよその事実は汲み取れる。

「困っていますよ、正直。なんせ半月もすれば異常が見つかって修理に点検で、代車ばかり運転している。ほんとうに新車を買ったのかって疑いたくなりますよ」困惑しているが、憤りには達していない。余裕が伺える。

「心当たりをご自身では感じませんか?」

「私が故意にいじってクレームをつけていると言いたいのでしょう?」不来はコーヒーを啜りつつ瞳を鈴木に向けて離さない。「仮にそうだとして何の得があるんですかね、お金がほしいのならもっと効率的な方法を取りますよ。第一、私はお金には困っていない。借金もありません。それに個人的な恨みもありませんよ」