コンテナガレージ

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ワタシハココニイル4-1

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 死亡事故の遺族は明記された住所で変わらず生活を続けていた。マンションの二階、外観は年代を感じさせるレンガ模様の赤茶色。利便性を加味すると郊外より多少高額ではあるが、交通費や移動に費やす時間を差し引くと生活環境としては都市部に合っている。種田は熊田の後ろについて廊下の水滴をみていた。

 熊田は部屋番号と名前を確認、インターホンを押す。

「はい」警戒心を持たずにドアが押し開かれると、小柄な女性が顔を覗かせた。

「O署の熊田と言います。亡くなられたご主人についてお聞きしたいことがあります」女性の顔が曇る。悲愴と言うよりかは、怪訝あるいは嫌悪と表現が可能。種田は後方で観察する。

「……今更調べる気になってもあの人は戻りませんから。申し訳ありませんが、そろそろ息子が返ってくる時間なのでお引取り下さい」ドアが引かれる寸前で熊田は足を差し入れた。女性は怯むどころからキリッと熊田を睨んだ。

「事故を蒸し返そうとしているのではありません。はっきりと申し上げますが、ご主人の無念を晴らそうとは思っていません。亡くなったのですから、我々が手を尽くそうともあなたの気は晴れないでしょう。ただ、ご主人がもし不慮の事故ではなく、引き起こされた事故に巻き込まれたのだとしたら……」

 熊田の訪問理由を彼女は遮る。「運転ミスじゃない、誰かに仕組まれたとでも言うんですか?」

 そこで種田が前に進み出る。「現状ではどちらとも言えません」

「捜査は打ち切られたじゃない!」風呂場のように廊下に声が反響する。買い物袋を下げた同階の住人は通り過ぎて部屋に入る前に一度熊田たちを見たが、流れる動作で躰はドアに消えた。

「事故とも言い切れない、しかし故意にハンドル操作を誤ったとも言えるのです」種田は女性の開きかけた口を手のひらで制止し、続ける。「単独でしかも交通量の少ない早朝の時間帯で起きた事故は目撃者がいません。もちろん、事故か故意かの判断はできかねますが、いずれにしても原因の特定は不可能。これが現状、警察の見解です」

「協力は強制するくせに事故の原因はわからないって、そんなの間違いを犯したくないのが見え見えなんですよ。事故にことかいて事実をうやむやにして、言い逃れを考える暇があった新しい証拠を見つけてくださいよ!」

「奥さん声が大きです」

「あんたに奥さんなんて言われたくない。もう夫はいないんだから」女性はうつむいて、躰を震わせた。彼女が泣き止むまで廊下はひっそりと漏れだす声が鳴り響いた。

 彼女は気持ちが落ち着くと刑事たちを室内に迎えた。時刻は午後の一時を過ぎたあたり、こじんまりした居間に二人は腰を下ろした。彼女は理知衣音という名で、苗字は旧姓には戻していないようでこたつテーブルに置かれた封筒の宛名には理知の文字が書かれていた。見えない位置に物を移動させただけでことさら片付いたとは感じない種田が室内をキョロキョロ見渡すと目線が熊田とぶつかりやむなく出されたお茶に行き着いた。

 「亡くなる前に車について不具合や違和感を訴えてはいませんでしか?」熊田はお茶に手を付けず、テーブルについた理知衣音に尋ねた。熊田は多少顔が近いと思ったのか、体をずらす。