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ワタシハココニイル4-2

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「いいえ、元々あまりしゃべらない人でしたから、よっぽどの出来事がなければあの人は黙っています。確実でないと話さない人だったので」

「仕事は何をなさっていましたか?」代わって種田の質問が飛ぶ。

「加工食品の会社で働いていました。私もそこで働いています」

「現在もですか?」

「はい、今日は休みで、子供がいると定時に帰らなくてなりませんので残業の埋め合わせに代わりに日曜にも出勤します」理知衣音はくぐもった声で言った。「私の現状が夫の死と関係あるのですか?」

「あなたが殺した可能性がもっとも有力で妥当です。夫を失って以前と生活環境が劇的に変化していたら疑うべき事象、とこちらは解釈します」

「やっぱり私を犯人に仕立てあげたいようですね」諦めたように理知は言葉を吐く。

「既に事故車は解体されていますから証拠を探しだすのは不可能。残る手立ては近しい人の記憶と証言しかありません」

「だから事故の時に何度も、もっと詳しく調べてくれって頼みました。でも応えてくれなかった」

「事故を解明したいという目的で私たちは来たのではありません。ですから、当時のとり合わなかった証言は大変重要な手がかりと考えています。旦那さんの死には無関係かもしれませんが、別の角度から観察すれば見えてくる事柄もあるでしょう」

「どういう神経をしているのかしら、まったく」理知は冷めた目で交互に刑事を見やった。そしてかすかに笑みを取り戻す。「だって普通は嘘でも真実を見つけようと私に言うもんじゃあないの?」

「嘘はつきません」種田が言う。「正直に話している。あなたは不鮮明な対応に嫌気が差していた。私たちは違う。目的は正直に伝えました、協力するかしないかはあなた次第です。断っても構いません」本心のやり取りで、種田の意思表示は敏感な人間にピンポイントで送られる。熊田は黙って二人のやり取りを見守る態度だ。

「まるで息子に言い聞かせているみたい」理知が呆れて言う。

「年代や場所を問わないと私は思います」

「変な人たち」口を抑えて理知衣音はこらえきれない笑いで声を出した。「すいません、あまりにも堂々としているもんだから、ついね。話しますよ、あなた達になら。でも、事故の前はほんとうに変わったことなんてなかったと思います」

「ただいまあ――」玄関には大きさで勝るランドセルに押しつぶされそうな躰が挨拶をしていた。「こんちには」ペコリと頭を下げる少年は脱いだ靴を揃えて理知の隣に立つ。

「息子の灰都です」少年は不敵に笑う。理知は尋ねた。「宿題は出たの?」

「うん、さんすうとね、こくご」

「おやつは宿題が終わってからね。ドーナッツだからね今日は」

「やったー」灰都はくるくると飛び跳ねながら自室に入っていった。

「元気ですね」熊田が言う。

「ええ、それだけが取り柄みたいなものですから」

「彼に父親の死を伝えたのでしょうか?」種田がまた踏み込んでずかずかと土足で歩きまわる。