顔から頭にかけてはスプレー噴射のような細かい血が付着、後頭部や頚椎のあたりは綺麗な状態である。あえて脈を計ることもないだろう、呼吸はなく、目は微かに見開き斜め四五度で天井を見つめる。死体と判断しても良さそうだ。もう明らかに人と確信し始めた相田は、鼓動の安定性を実感して署に連絡を入れた。
「なんで僕が呼ばれるんですか?」喫茶店で休憩していた鈴木が呼び出され、相田が直面する現場への急行を明示された。指示は熊田からではなく、別の班からの要請である。
「どうせ、優雅に昼飯でも食っていたんだろう。刑事に定刻の食事なんてあると思うなよ」
「まだ食べているなんtr一言も……切れた」
そういった経緯で鈴木が応援で現場に派遣された。
玄関先の、かろうじて雪がしのげる庇の下。
車を降りた鈴木はぼやきながら相田は駆け寄った。鈴木の車の他に鑑識のバン一台が先に到着していて相田は鑑識に現場を引き渡し手持ち無沙汰で佇む。相田は風の弱まりを見計らってタバコを取り出し吸い始めた。
「相田さん、禁煙してませんでしたか?」
「やめたとはいっていない、吸わない時間を増やしただけだ」
「へえ、そうですか。それで、現場の状況は?」
「鑑識の所見では絞殺だろうってさ、飛沫血痕は殺害直後か、致命傷にならない程度に傷つけられたんだろうな。五、六メートルは飛んでいたし」
「寒くありません?中に入りましょうよ」細身の鈴木に比べて相田は二倍とまでいかないが一・五倍の体重差がある。鈴木もタバコの煙を吸いたいそぶりを見せる。両手はポケットに仕舞ったままである。「そういえば、僕より先になんで相田さんが到着してるんです?本部から呼ばれてきたんですよ、僕」
「俺が第一発見者だからな、まあ、まだ他殺と決まったわけではないから誰が見つけたかなんてことは意味が無いかもしれない」
「誰に会いに来たんです?」鈴木が聞いた。
「ほら、お前が調べてるM車関連の事故車両、それの軽傷者だよ、熊田さんと種田は亡くなった方の遺族を当たっているってわけ。それでここへ来たのさ。嫌な予感がする。お前の方はどうなんだ、サイトの書き込み犯の居所は判明したのか?」
「そっちは情報班に調べてもらっています、僕はクレーマーに話を聞いてきましたよ」
「それで何かわかったか?」
「なんにも。ただ、不来さん、ああ、クレーマーのことですけど、ストレスを貯めているふうでもなくてしかも車には割合鈍感な方だと見受けられました。自ら不具合をつくりだして訴えているとは思えません」
「専門家にでも頼んでいるのかもしれない。そこら辺は本人が車に精通していなくても、また本人が認知していない所で勝手に細工されている可能性もある」
「自分の車がいじらてるのに知らないってことあります?僕は信じられませんね」鈴木は愛車に視線を送る。