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ワタシハココニイル7-5

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「何でしょうか、抽象画ってやつですかね」両膝に手を添えて鈴木が覗き込む。

「建物が描かれているんだから風景画だろう」

「それにしても誰かに見てもらうために描いたとも思えませんね。商売として成立させるためにはだってほら、需要に見合った絵を書かないとお金が稼げません」需要とは具体的にはどのようなものかを熊田は考えた。肖像画、建物、残りは作者の描く絵そのものに全て価値があると見出される人種の作品。有名画家の過去の無名時代の作品に焦点を合わせるのは滑稽だ。見ていなかったのか見ようとしていなかったのか、はたまた、出会ってさえいなかったのかのどれかに属し、しかしそのどれでも予め高評価を胸に携えて対面を試みるんだ。感動したいからその感動を先に呼び起こしておく、余熱のオーブンで美しく均等な焼き目を求めて。

「画材道具を捻出するための不本意な絵かもしれない」熊田は呟いた。

「だったらこんなに丁寧にしまっておきますかね」

「割と雑な保管だと思うがな。日差しも当たらないし、室内も適度に風が通るから最適とは言いがたい。一応これも調べてもらおう、鑑識に持っていく」

「置いてったんですよね?」

「証拠ではなくて、描かれた年代を調べる」

「なるほどって、描かれた年代を調べてどうするんです?」拍子を打って疑問が湧いた鈴木である。

「聞く前に少しは考えたらどうだ」

「すいません」

 置き去りの絵画は鈴木の手によって鑑識に回された。熊田たちは見張りの警官の到着を待って署に帰った。落ち着いた現状に不満を抱かないことが環境を整える最良だと自負する熊田は、争い事を嫌う。しかし、現部署に飛ばされたのは自らが引き起こした同僚や上司とのトラブルだった。捜査上で常にぶつかり合っていた。捜査員たちも含めて人は大きなものに巻かれたがる。組織に依存する術は逆らわないことだと刷り込まれているようだった。端的に言葉を伝えたつもりでも嫌がらせによる執拗な回りくどさが頻発するようになると、熊田は一人での行動を余儀なくされた。もともと、人との関わりを得意とする質ではないのだから好都合と受け止めて仕事を続けた。

 最悪の状況でも光は見えるらしい、中には情報をそっと流してくれる人も現れ始めた。それでも誰にも知られずにそっとである。仲間であると悟られたくはない立ち位置。良心が働いたのだろうが、どちらにもいい顔をするそれらははっきりと敵対心を表す人よりも濁った色にみえた。でも情報ありがたく、その介あってか熊田一人の捜査が事件解決に導き、さらなる上層部の怒りを買って現在に至るのだ。

 相田、鈴木、特に種田にはまだまだ先がある。彼らにはどうにか私のような道を歩ん欲しくはないと思うのも幼い頃に嫌っていたおせっかいだろう。足をあと一歩で踏み外しそうになったその時に手を差し出せればと考えを改めた。危うく取り込まれるところだった。

 深々と降り続いた雪はぱったりと止んで、午後三時を回る頃には街灯にほんのり淡い明かりが点灯していた。外は空気が張り詰つめて頬を刺すようだった。