コンテナガレージ

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ワタシハココニイル8-3

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「ん?何にか言ったか?」

「気づいたことでもあるのですか」熊田が受け答えに反応しない時は決まって深海に潜っている証拠だ。

「いいや、ただなんとなく気が遠のいてきて」

「お前もそろそろ体力的に辛くなってくる年齢だろう」同意の頷きで神が勝手に診断を下す。

 コーヒーを半分ほど飲み干して熊田が言った。「あの家は寒かったな」

「暖房は消されていました」壁際のストーブは息を潜めるかのように家具の一部と同化、種田が記憶をさらう。

「滞在するつもりはなかったとでも言いたいのか?」

「荷物は車に積みこんだ状態でした。洗濯するだけのために家に戻ったと考えても寝室のタンスには下着や服はほとんどなかった。つまり、着替えを取りにあるいは洗濯のために帰ってきたのではなくて、なにか忘れ物をピックアップして引き返すつもりだったのではと考えます。とすると、暖房を入れていなかった、コートを着用していたことも説明がつきます」触井園京子の胸元のボタンは外れていた。傷の具合を見せつけるように。

「計画的」神が言い切った。 「ええ」熊田はコーヒーを口に含む。「触井園京子の帰宅を知っていたことになります」 

「相田さんが今のところ最有力の犯人でしょうね」種田はさらりと恐ろしい事を言ってのける。同僚が殺人犯であろうが関係はない。近しい人が罪を犯すのはおそらくは日常に起きていることだろう。淡白で機械的な切り捨てる思考だと言われる種田の人間性が最もよく現れた見解。事実であり感情的な判断を抜きにすれば彼女の右に出るものはいない。熊田もそれを非常識だとは思わない。

「残念ながらな」熊田は動じずに部下を容疑者に推挙してしまう。

「本気で言っているのですか?」PCの画面に張り付いていた鑑識の女性が話に割って入った。

「可能性の問題だ。本心でそう思っているわけではない。まあ、どちらでも大して変わりはないだろうがな」神が花を摘むよう単調に答えた。

「防犯カメラの映像も見込めない」種田が更に付け加える。民家それも隣家は窓を開ければ手の届く都市部の狭小地とはまったくの別世界で窓から大声で呼んだとしても隣家の窓が解放されていない限り、いや開いていたとしても気に留めることはない。そのぐらいの距離感なのだ。まして冬で雪。風が吹いたら悲鳴も室内でかき消されたであろう、と種田は考えを巡らせた。しかし、苦い液体を飲み干して声が出た。「郵便物はポストに届いていたでしょうか?」

「郵便物?ああ、ダイレクトメールなら何通が郵便受けに入っていたのを回収した」

「正確には何通です?」

「ちょっとまってくれ、ああっと、四通だ」神は脇に寄せていたファイルで確認すると向きを変えて見せた。