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ワタシハココニイル8-4

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「保険会社から一通、車の定期点検のお知らせが一通、手紙も一通ですね。最後の一枚は結婚式の招待状、とっくに式は終わっています。家にほとんど帰っていないのはどうやら本当のようです」

「公共料金の請求書がない」

「ネットの電子領収書に切り替えたのでしょう」鑑識の女性が言った。どうやら耳を立てて聞いているようだ、種田はそちらへ向いて詳細を尋ねた。

「そんなことができるのですか?」

「ネットでの取引にでも電子領収書は利用されています。通常送られてくる領収書と同様の効力、価値を有します。これなら失くさずに済みますし、もし必要ならばダウンロード、実物の証明書として発行されます。家に帰らない人には向いているサービスですね。家に請求書を送付されない方法を取ったのでしょう」

「ホテル住まいだったとしたらカードの利用歴で足跡を辿れるかもしれない。調べてみます」熊田はすくっと腰を浮かせそして足早に鑑識の部屋を出て行った。種田は急ぐ様子は見せないものの、熊田の姿を見失わないように後を追った。

 二階に戻ると待機の二人に鑑識の見解を話した。熊田は途中、種田に伝え漏れがないか尋ねたが熊田の伝達はほぼ神の言葉を正確になぞったものであった。

「相田さんが一番、犯人に近いんですね」相田の犯行を頭から否定はしない鈴木は平然と先輩の隣で感嘆を漏らす。「でも、凶器はもっていませんでしたから白じゃないですかね」

「当たり前だ、そんなもん持っているかよ」相田が言い返すが、鈴木は聞いていない風で付け加える。

「ああでもですよ、雪の下に隠したってことも考えられます」

「血が付いた刃物を真っ白な雪の中に隠そうとしても無理だ。血痕は雪に到達する前に床なり玄関なんり落ちるだろう」

「そうかあ。ああ、じゃあこれなんてどうです。先に首を絞めて殺しておいて、駆けつけたふりで室内に侵入し被害者がもたれたソファの背後から刃物で突き刺すんです。そして血を飛び散らせながら一旦外に出て僕に連絡、その後駆けつけた僕と一緒にリビングに入ってそっと窓の鍵を閉める」

 パシリと相田の浮腫んだ手が鈴木を叩く。「お前が来る前に鑑識が来ていただろうが!」

「痛いなあ。あっ、言われてみるとそのとおりですね」

 鈴木と相田のじゃれあいに対し種田は触井園京子が所持していたカード会社KDCに問い合せ、自分が警察であること、触井園京子が死亡したことを告げて迅速な対応を要求し事も無げにカード会社から彼女に関するカードの使用履歴を入手した。種田は目で合図を送り熊田を呼び寄せる。PCの画面に口頭で伝えられた内容を文字に書き起こし、被害者の先月から今日まで情報を詳細に記した。

「最後の使用履歴は空港か。昨日の午前便で東京から北海道に入ったのか。その前は都内のホテルで支払いを済ませている。東京の前は大阪と京都でも宿泊しているな」

「昨日到着で今日殺された。仕事が昨日、北海道であったのかもしくは個人的な目的か……」相田は重たい体を椅子に押し付けて眉間に皺を寄せて唸った。

「今日の午前中には殺されていたなら被害者は昨日、自宅から離れた場所に滞在していたとは考えにくいな」熊田は鈴木に言う。「鈴木、空港に電話だ。空港の駐車場に監視カメラが付いているかどうかを確認してくれ」