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ワタシハココニイル8-5

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「はい」

 種田が疑問を呈する。「空港に車をとめるのは必ず帰ってくるからです。しかし、触井園は各地を転々しながら取材生活を送っていたと思われます。空港にとめていれば莫大な金額を請求されますが」

「一理あるな。しかし、被害者の車を誰かが予め運転し駐車場にとめていたとしたら、どうだ?」

「彼女は車で空港を出られません。駐車券がなければと支払えない」

「こっちの空港か出発先で渡されたんだよ」相田が手を挙げずに種田に対して発言した。

「考えられなくもないですが、親密な仲なら落ち合う場所や時間をメールなり電話で連絡のやり取りを行なっているはずです。でも、そのような履歴は携帯、PCからは見つかっていませんし、消去された痕跡もありません。残された可能性としては、他のデバイスで連絡を取り合っていた場合です」

「はい、ええ、そうです。空港の監視カメラの映像なんですが、いいえ、そうじゃなくて、先ほど申し上げた時間の映像をですね、見られないかと言っているんです。はい、はい。ちょちょっと待って下さい」受話器を抑えた鈴木が言う。「駐車場のカメラはゲートと全体を映す位置に数台に設置されているだけで、そのほかのエリアは警備員の巡回で対応しているようです」

「とりあえず被害者の空港到着時刻から空港内の映像を見るしかないな」顎を触りながら熊田が方針をまとめる。

 鈴木はこれから空港に向かう旨を告げて電話を切った。時刻は午後十時十二分。

「鈴木と相田はもう帰っていいぞ」熊田の指令が飛んだ。二人を見ずにデスクの角に焦点を合わせて。

「僕達も行きますよ」鈴木は張り切る。

「四人は大所帯すぎる。それに二人には別にやってもらいたいこともあるしな」再び合わせた視線に鈴木がわずかに取り込まれそうになった。種田にはそう映る。これは熊田がよく行う手法である。

「なんです?」眠そうな目を熊田に向ける相田は捜査よりも眠気が勝っている様子だ。

「情報班の解析を待って鈴木が追っていたサイトの書き込みを特定してくれ」

「熊田さんたちのほうが面白そうなのは僕だけでしょうか」鈴木が不平を口にする。

「これには俺も同意権だ」珍しく意見が合う相田と鈴木。鈴木の口が左右にこれでもないかと思う精一杯に引かれる。

「何だあ、相田さん気が合いますね。今日飲み行きますか」

「馴れ馴れしい。おごってもらうつもりだったらあてが外れたな、生憎今日は持ち合わせがないもんでね。残念でした」

「そっちが嫌なら代わってやってもいいぞ。一時間半のドライブを種田と一緒に過ごす気があるのならばな」

「……帰ります」熊田の誘いに無表情で応え、相田はコートを掴むと鈴木を連れていそいそと部屋を出て行った。