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DRIVE OF RAINBOW 1-1

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 押し付ける無数の雪がフロントガラスを埋め尽くしては消える。ワイパーは迅速かつ華麗にしかし定期的、規則的なポジションを保持し、えらく健気に振幅。ワイパーが視界に入りながら運転する熊田は、ただハンドルをとられないように適度な力で握り、温室の車内でぬくぬくと目指す。

熊田は、新C空港までの快走に従事していた。

 熊田の助手席では微動だにしない種田が後輩の意地と彼女の性質により襲いかかる眠気に息を殺してやり過ごす算段で、閉じかけた目をつむることなく細い体をシートに収めている。

 高速道路は最寄りのインターから現在地S市の中心街を通過したあたりまで速度規制がかかり、熊田が思い描いていた到着時刻とのズレが生じていた。それでも深夜のためか車両の数は少ないため、事故に遭わずにここまで走行してこられたのは何よりであると熊田は感じていた。トラックなど視界を遮る車両が前方や隣車線で並行して走っている場合、常にそれらの車両から目を凝らすあまり、大いに集中力を消費してしまうからだ。

 熊田の車は買い換えたばかりのセダンでシンプルなフォルムの外車である。不具合は今のところ感じてはいない。

 そもそも新車に買い換えて一ヶ月以内に何らかの不備が発覚すれば、同種の車にも同様の被害が及んでいるとの考えに行きつくのが、健全な会社の対応である。それでもM社は不具合が確認された車両のみを再度点検し、場合によっては部品を交換してお客のもとに返還しただけで、いわゆるリコールの手続きはとらなかった。

 しかし、会社側は対応時に発生する被害額に目を背けたとは到底思えない。事故が起き、これらの事実が発覚した時の信用の失落よりは不具合の調整を選ぶだろうし、安全が最優先されるべき商品は安全が大前提だ。

 そういう警察もポロポロと不祥事が明るみに出たので大きな声で批判はできない。むしろ、そのような警察が権力をかざして捜査の名目のもとに利権を振りかざす姿が署内でも自然と目に入ってくるのが現状だ。

 熊田はそれらの厄介事を見たくないために信念を貫いて現在の部署に異動させられたのであった。彼は優秀な人材であったがゆえに上層部、主に昇進を糧としてプライドの塊と手柄の追求で表されてしまう人種達の圧力で飛ばされてきた。事件解決のみを主眼として行動する熊田だから、反発が日に日に増して、しかも彼が事件を解決に導くものだからやっかみが徐々に膨らみ伝播し挙句は彼を好意的に慕っていた署員でさえも、くだらない権力と派閥争いの末端で子供のようなあからさまな軽蔑の態度をとるようになり、それでも彼は普段とかわりなく仕事をまっとうするものだから上層部が彼を最前線から排除したのだった。

 雪がパタリと止んだ。「あと1キロ」のインターの看板を捉えると熊田は無音だった車内に音を流した。ラジオをつけて渋滞の情報を集めるためだ。聞き取れる最小のボリューム。左車線に寄ると助手席の種田に動きが見られた。

「すみません、眠っていました」声がかすれている、暖房で粘膜が乾いたせいだろう。

「そんな狭い場所でこの時間でそれも暖かい空気が足元から流れてくるんだ、寝るなって方が無理だよ」熊田はバックミラーで後方の車両を確認する。後ろからは一台もライトの明かりがなかった。車はぐるりとRのきついカーブを曲がって料金所にたどり着く。天井付近に装着したカードをあらためて確認してからそろりとETCのゲートをくぐって荷物検査にパスした緊張感を携えて一般道におりた。

 高速を降りると目の前は見慣れた信号で高速の走行から標準モードの走行への切り替えを促すような気持ちを落ちつかせる作用の信号待ちに思えた。

 熊田は、夜間の冷却で照らしだされた交差点の氷の反射に青信号のシグナルをとらえて慎重にタイヤを転がした。しばらく道なりに車を走らせてから信号を右折、そのまま左レーンで次の信号を左折。明かりの乏しい直線でほんの僅かにスピードをあげる、それもつかの間突き当たりを右に曲がる。線路と並行して走行。青い標識の案内で進む。空港手前の駅を通過し、アップダウンの勾配を抜け、巨大な玉を乗せた円柱の建造物を右手にトンネルをくぐるとようやく空港に到着した。