コンテナガレージ

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DRIVE OF RAINBOW 1-5

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 車に乗り込んだ彼女はゲートを通過し空港を出て行った。方向はS市方面である。

「種田」名前を呼ばれただけで、種田は携帯を耳に当てていたのだ。行動の素早さと展開に警備員の牧野は、またワクワクし、退屈な日常を埋めるように事の成り行きを見守っている。映画やドラマの一場面に自分は身をおいて現実が動き出していると錯覚した想像できる。

「ナンバーの照会をお願いします」種田は高速道路のシステムで触井園のナンバーを検索した。空港を訪問する前にナンバーの照会をしていても良かったのであるが、熊田は足跡を順序立てて空港から辿ったと種田は考えを読み取る。それが熊田の精神構造から導き出される手順。航空券の購入が唯一の手がかりであるのだから、安易に先を詮索して彼女の足取りを空港から追ったとしても、彼女自らがここまで車を運んできたとは判断しがたいのだ。

「ありがとうございます」種田が通話を終える。

「どうだ?」熊田が尋ねた。

「高速でS市へ向かって北インターで降りています」

「そこからの足取りは?」

「ありません」

「そうか」しばらく間をあけて熊田は牧野に言う。「この車が入ってきた時刻の映像を出してください」

「入ってきた時の、ですね」

 一昨日の午後一時を映し出された。車は先程の映像と比べて車も頻繁に通過、駐車される車の量も多い。目的の場所に車がとめられた。運転席から人が出てくる様子はワゴン車の影に隠れて見えない。

「別角度の映像はありませんか?」

「このフロアはこのアングルだけです」

「エレベーターの映像に切り替えて」種田が指をさして言った。一階入り口の映像には後方にエレベーターが収められていた。牧野が操作した画面には触井園京子がエレベータに吸い込まれていく映像がはっきりと表示されている。右上の時間も間違いなく、日付も一昨日である。ただし、彼女が車を運転してきた証拠にはならない、車から降りる姿はカメラには映らなかった。

 東京でカードを利用したのはダミーか、種田は瞬間的に動きを止めて思案した。ダミーを遠隔地で発現させる意味合いは殺すことが前提でしかも彼女が東京にいて飛行機の搭乗を知らしめるため。しかし、何のために?解剖の結果からも死亡時刻は今日の午前だと判明している。アリバイ作りだとしても彼女が死んだ時刻の証明が必要となるのだから、彼女が東京にいても、いなくても無関係だ。物理的な移動時間においてアリバイの証明を望んだのか。また、彼女が北海道に滞在していたとして誰に何のために工作を行ったのだろう。そもそも彼女はカードの存在を知っていたのかも疑問だ。

「空港までやってきて飛行機に乗らなかったと理解して宜しいのでしょうか?」だらりと垂らした腕、種田はゆらりと前後にふりこのように揺らす。

「新しくなった空港を見に来たのかもしれない」難しい顔で熊田は答えた。

「新しくなったのは春先です」

「一昨日に初めて来た可能性だってある」

「ライターという職業で仮にも家が北海道にあって、春から冬まで一度もこの空港を利用していないとは考えにくいですね」

「カード会社の利用歴は?」

「何度も新C空港発の航空券を購入していました」種田は脳内で記憶した利用歴を取り出してサラリと答えた。

「そうか。……すると全国を渡り歩いていたのは彼女でないかもしれないな」

「別の誰かがカードを持ち歩いていたと、そうおっしゃりたいのですか?」おかしい、間違っていると、種田は顔に表した。

「彼女の職業から各地を転々とする様子をこちらが勝手にカード履歴で想像したまでだからな。カードは本人が認めていれば他人が使っても不正使用でカード会社に届け出なければ、利用を止められることはない。うん、そうすると使用者は女性である確率が高いか」あくまでもこれまでカード会社に疑われていないと仮定しての熊田の発言だろう。

「あのう、映像はもう見ないんでしょうか?一応、今現在の様子も監視しておかないといけないので……」警備員の牧野は言いづらそうに刑事たちに自分の仕事の権利を要求した。たとえ警察に協力する義務が市民にあったとしても、本来の業務を妨げてまでの権限は今のところ熊田たちには与えられていなかった。もっと緊急性の高い事例なら話は別である。

「すいません。どうぞ、映像を戻してもらっても構いません」熊田はさっと厳しい表情を解いて要求に応じる。

「こちらも定時には一応すべてのカメラをチェックするように言われているんですよ」画面が切り替わり、通常の映像に戻った。カメラの一つに、交代して巡回に出て行った葛西理一の姿が見える。両手を腰に当てて車の間と間を隈なくチェックしている。侵入者や病人、迷子がたまに居るのだそうだ、牧野が聞いてもいないのに情報を流した。

 刑事たちは留まる意味がなくなったので空港を後にした。時刻は日をとうに越えていた。種田は熊田に自宅まで送られ、彼が家路についたのはそろそろ陽が昇る頃と予測できた。これまでの経験と発言から導いた大まかな予測である。走り去る車を見送り、空に顔を向けた。寒空の朝方には雪がまたチラホラと忘れられないように降ってきた。

 

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