コンテナガレージ

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DRIVE OF RAINBOW 2-1

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 鈴木は家を出る直前に連絡を受けて一路、自動車会社Mの支店に急行した。なんでもまた似たような書き込みがされていたというのだ。営業時間前でお客専用の駐車場では社員がせっせと昨晩積もった雪をスコップで掻き、その男性社員に支店長の所在を確認、裏口まで案内してもらいやっとぬくもりを感じる暖かさにありついた鈴木である。                                                               

 節約のため自室のマンションでは極力暖房器具の仕様を抑えていた。環境問題や節電に感化されたのではなくって、単に預金が底をついたために切り詰めて生活を送ってるだけ。北国なのでエアコンはなく、主に石油のファンヒーターで暖を取るのが一人住まいの生活者の暮らしであり、あまり部屋に帰らないあるいは帰っても寝るだけの生活ならば、寝起きの時間だけ部屋を暖めるので光熱費は割と安く済ませることができる。それでも、そのほんの数千円が鈴木にとっては大問題で、金欠の原因となったのが先月に購入した新車だ。車から降りた時も振り返り車のフォルムを見つめて雪かきの社員から不審な目で見られていた。

 鈴木は裏口から休憩室に案内される。支店長が彼の腕をとってPCの前に座らせた。慌てた人の力は知っていてもやはり強い。

「見てくださいよ、刑事さん!」上擦った声は口元から鼻までを覆ったマスクでくぐもって話された。支店長は興奮というよりは、危機に直面して慌てているようだ。鈴木にとっては人が慌ててくれたほうがこちらが安定し落ち着く傾向にある。

 画面はお客様サポートセンターの題目で質問内容を匿名で自由に書き込める管理側専用のページ。見て欲しいと促す質問内容の項目を支店長がマウスで開く。

「これです。これ」

 関係者各位

 御社の製品に不具合が生じる恐れアリ。

 早急な調査を心から望むばかり。

 車は急に止まれない。

 車は急に直らない。

 兄弟の一人が欠け落ちて、戦線を離脱するだろう。

 自滅と全滅。

 ああ、窮屈。

 すり減った私が見えてる?

 明日は満月。翻って新月

 いつも出ている月は雲で隠れてなかったような振る舞い。

 カウントダウン。 

 騒音に掻き消されて聞こえないの?

 

 鈴木は肘をついて厳しい表情で画面を凝視していた。予告状だろうか。それよりも模倣犯か。車の不具合は会社と警察でも鈴木を含めた四名と上層部の幹部たちからしか情報を掴んでいない。上から情報が漏れる場合は意図した計算の上。それを加味しても利益となる時だけに限定されてしかるべき人物、機関に流失させる。今回の事例はそのような旨味はまったくといっていいほど無いに等しい。まあ、なにか特別注目度の高い事件が明るみに出るなら打ち消しの作用でリークする可能性もあるか。「うーん」、と鈴木は低く唸る。

 

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