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DRIVE OF RAINBOW 6-3

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「おまえ、ではありません」即座に訂正を求める。

「すまん」熊田はポリポリと頭を掻く。

 気を取り直した種田は質問に答えた。「自殺か他殺か、あるいは自殺を手助けした他殺のどれかで、解答は三通りですね」

「コートを着ていた、荷物は車のトランク、室内は暖房が切られていていた」熊田はキッチンに足を進める。「鍵は全て内側から施錠され、いわゆる密室の状態で相田が第一発見者。相田は極力血を踏まずに被害者が座るソファに移動する。やはり、被害者が殺されたのなら犯人も相田のように血だまりを避けて逃走したと考えるべきだろう」

「相田さんの場合は緊急性を要する状況で多少血を踏んで現場を乱したとしても咎められません。生存の確認には近づかないと無理でしょうし、その覚悟で血を踏まないようにしてやっと辿り着いたのですから、もし殺人を犯した者が逃走経路にまで気を配っていたのならば計画的犯行とみて間違いないでしょう」

「相田の踏み込みで残されていた証拠が消えたのかも……」

「本気で言ってます?」

「あいつが無実だと証明しようとすれば、この結論に行き着いたまでだ」

「そういう心配ではなくて、証拠を消してしまう事態がもし仮に起きたとしたら、相田さんは免職になりかねません」

「妙だな」熊田が片目で言う。「人の心配をするなんて柄にもない」

「特異な状況でしかもM社の事件との関わりも示唆されている今、上が動いているんですよ。また責任を押し付けられたら本当に警察にいられなくなります」何故今日に限って熱く人情を語っているのだろうか。種田は自問する。キッチンの小さな窓が風に押されてガタガタと震えているみたいに揺れる。私の体も同調して手が冷たい、足の感覚は数分前からなかった。

「震えてるぞ」

「ちょっと寒くて」

「……署に戻るか」

「あの、私そんなつもりで言ったんじゃな……」

「種田のためじゃない。そろそろ鑑識から情報が上がってくる頃だろう」

 種田は玄関で靴を履く熊田に弁解する。「本当に違うんです」

「寒いのはお互い様だ。男でも女でも、まあ別にどっちでもいい。気にしていない。一番気にしているのは周りじゃなくてお前のほうなんじゃないのか」

 いつもなら言い返せた、何度も反芻してきた答えで慣れたありきたりの差別だったのに、熊田の声に乗るとどうしてか受け入れてしまう。やはり今日はおかしい、熱でもあるのかと額を触っても顔の油が指先に付着して正常に体を動かす機能に甘えている私が垣間見えた。