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DRIVE OF RAINBOW 8-2

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 熊田はドアを開けて廊下を通り、デスクには戻らず自販機でコーヒーを買う。管理官の隣にいた人物ははたして、給料に見合った働きをしているのだろうか、と熊田は考える。研修中の身かも知れない、ゆくゆくは彼が管理官となり現場を指揮する立場に成り代わるシステムか。または秘書のような役割。管理官ともなると仕事量も増えて一人では管理できなくなるのか。権限の集約は耐えうる限界を見越して構築する。問題がやって来るたび、処理が遅れるたびに把握しきれなくなって、管理を放棄するのだろう。彼は監視役を担っているのかも。管理官の暴走を一定の基準に従って見守る。更に上層からの指示で動いているとも考えられる。

 熊田はタバコを吸い始めた。コーヒーは、プルタブをあけて一口目を味わっている。何故このような不毛な考えに支配されているだろう。そうか、呼び出されたのだ。忘れよう。抱いていても先がないのだから、覚えていても不要な感情を引き寄せてしまう。

 タバコのフレーバーを身にまとった熊田が戻る。席に座って落ち着かない鈴木、そのとなりでどっしりと背にもたれる相田、相田の斜向かいの種田。彼女だけはいつもと変わりない、スラっとした姿勢で席についていた。

 熊田は伏し目がちに登場。自分の顔がどうなっているかと熊田は気になったが、自分からは見えないので諦めてそのまま席についた。相田・鈴木と目が合う。

「捜査は打ち切りで上層部が圧力をかけてきた。捜査に手を出せば何らかの罰が待っている思って間違いないだろうな。私が捜査を継続させれば主導したとしてここにはいられなくなる、あるいは警察をも辞職しかねない、と脅してきたよ」熊田は座り直す。「生活があってこその捜査で警察であるから、捜査の継続は正直望んでいはない。車の不具合も元をたどれば会社側の落ち度であって、こちらが躍起になって調べることもないように感じるんだ。お前たちだって、仕事を失うのは本意では無いだろう」

「人が一人、死んでいます」種田が低い声でいう。声だけ聞くと男性かと思わせるほどだ。「上層部はM社と取引を交わしたのでしょう。憶測ですが上が捜査を再開したのは単なるアピールとしか思えません」

「全て憶測だよ」熊田が椅子ごと種田に向く。

「M社と警察の関係性と、触井園京子の死は立派な繋がりです。上層部は公になるのを恐れてM社と協同し事態の隠蔽を計り始めたんです!」血走る種田に鈴木は身を引き、相田はめったに見られない種田の態度を見物する。

「要するに、上層部は被害者と不具合の車両との関係を見出したと?」

「間違いありません。あの管理官は利にならない行動はしない性格です」

「過去にあの人と何にかあったのか?」

「なにもありません」

「どうしたもんかね」熊田は天井を仰ぐと頭をポンポンと叩いて鈴木に話を振る。「そっちはどうなんだ?情報班に書き込み犯の正体をきけたのか」

「それがその……」鈴木の顔が一瞬で曇る。

 相田が弁明する。「実は、聞きに行ったことは行ったんですけど先に上層部の連中が情報を吸い上げていったあとで、情報は非公開になりました」

「教えられないということは、どういうことだろうね」熊田は再度、種田にきいた。

 当然といった表情でほんのちょっと顎を出して彼女は言う。「私達の捜査が確信に迫っている」