コンテナガレージ

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ROTATING SKY 1-4

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「大学での学部は文学部ですよね?」

「はい」

「現在の職場とは関係がなさそうですね」

「不景気ですし、希望した会社や仕事に就けるような時代でないことはご存知でしょう」

「そうですね。では、先週、我々が訪問した日の午前中はどちらにいらっしゃいましたか?」女性刑事が質問を変更してきた。おそらく本当に聞きたかったのはこのことだろう。

「近くのショッピングモールに出かけました」

「何時頃まで?」

「お昼過ぎ、二時には家に帰っていましたから一時過ぎまではいたと思います。私なにか疑わているんでしょうか」何もしてはいないが、もしかすると不安定だった昨日は私が記憶を書き換えたためのでっち上げではないかとも考えたが、そうではない。買い物をして食事をした。証拠もある、財布にはレシートが収めてある。胸の高鳴りを感じつつも、疑いの目で私を捉える鳥のような目の二人を見返してやる。だれでも疑っているのだし、誰も信用はしていない。これが警察なんだからと言い聞かせる。朝に飲み忘れた水分の不足が緊張に作用して喉の渇きを誘発する。

「ご主人の車と同種の車での事故が報告されています。軽傷者の一名は先週死亡しました、またもう一名、最近事故には至りませんが車両の不具合が発生しています」

「死んだ?事故?」

「おそらく他殺です」

「殺されたってことですか」

「はい。ですので、あなたのアリバイを聞きに来た次第です」

「待ってください、おかしいでしょう。私が何故その人を殺さなきゃならないんです。知りませんよそんな人」

「どうして知らないって言えるのでしょうか、まだ名前も言っていませんよ」誘う顔つきだ。わかっているそうやって揺さぶりをかけようしてるんだ、大丈夫、私は罪なんて犯してない。落ち着いて。

「誰も殺していない。だから、知り合いではないと言ったんでしょうが。何なんですこの人」理知衣音は男に訴えた。しかし、男の刑事は苦笑いを向けただけで女刑事を窘めないで泳がせている。あえて彼女にしゃべらせているのだと、理知は思う。でも、なんで私が疑われるのか。冤罪とはこうやって外堀を埋められるのかとの考えが不意に頭をよぎる。そのような報道をテレビで見ていたっけ。

「ご主人に生命保険をかけていましたね」眼鏡の奥で女性の目が鋭くなる。

「ええ。一銭ももらっていませんけどね」本当は少しだけ支払われていた。保険会社が事故とは判断してくれなくて、実際に支払われた保険金は微々たる額、死亡によって支払われる書類に明記された金額とはかけ離れていた。それらは全て葬儀代に消えていたので、もらっていないと言っても真実だ。