コンテナガレージ

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ROTATING SKY 2-1

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 S市中心部、駅前通から外れてSS川を南下、大通りに行き着く手前をナビは示していた。中心部は交通量を一定に保つ目的で一方通行が多用されて、目的地には大きく回り道をしないとたどり着かない。もう一つの問題、駐車場所が見つからない。急遽、赤信号を利用して携帯から近場の駐車場を検索にかけた。ところが料金よりも出入りがスムーズでこれ以上回り道をしない進行方向にある駐車場が一件、車を走らせる視界に調べる手間もなく飛び込み、減速、歩道に上がり歩行者の切れ間を縫って立体の駐車場に潜り込んだ。

 防寒着を着込んだ駐車場の案内人が手際よく回転の切れ目が床に目立つ所定位置に私を誘導し掌を2つこちらに見せて停止の合図。車から降りて駐車券を受け取る。お金をもっと使ってくれと税理士に言われていたことを思い出して、あえて料金表を見ずに利便性だけを重視して駐車場を選んだわけである。それと経費として落ちるからとも。

 不来回生は助手席においたカバンを持ち、颯爽と都会の寒空に登場する。歩く人々は、足早に転ばない速度で行き交う。人の流れに不来は逆らい、屋根が途切れたアーケードの商店街、角のファストフード店にてコーヒーをテイクアウト。それから雪に晒される覚悟を持ちアーケードを出て、北に約一ブロック歩き、目的の店舗に到着した。

 現在不来が手がけている仕事は狭小物件の路面店で、コーヒーショップに改装するため、この場所に数週間前から通いつめいている。中心市街での改装や店舗の解体は周囲の商売に迷惑をかけないよう、営業が終了した深夜に行うことが多い。この物件、以前はフレッシュジュースを販売する店であった。そのため、カウンターとお客が注文するスペースでほぼ店内は埋まってしまう程度の広さしかない。

 クライアントからの要望は、通りから見通せる大きめのドアに、背の高さに合わせたカウンターで、重々しい感じや金属的な素材は極力排して欲しいとも言っていた。黙ってもお客の視界に入るステンレス製の器具とのバランスを考慮した申し出であった。

 シャッターに鍵を差し込み、上げて、店内を観察する。まだ、内装作業の残り香が最初に感覚を捉える。

 不来は目を閉じた。

 店が開店、お客が来店する。男性女性問わず、性別の差はあまり感じられない。スーツ姿が目に付く。オフィス街で早朝は仕事前に立ち寄るお客が大半か。店内の席はわずかに二席のカウンターで本来はコーヒー提供までの待機のために設けたスツール。朝の時間帯、この席は空いているだろうか。席は作らないほうがいいかもしれないと訂正。いいや、入り口ドアに二脚の椅子を置くことにしよう。外からの配色もこれでまとまりが出る。あと、店に水回りの設備が必要であった。コーヒースタンドなので洗い物はドリッパーやフレンチプレスなど細々とした調理器具のみでカップやグラスでコーヒーを提供しないと、打ち合わせでクライアントが言っていたので、洗い場は最小限で済まそうか、その隣りに衛生上の基準をクリアするために洗面台も配置する。鏡はお客を映してしまいかねないので、洗面台のみを選択しよう。ここは、あとでまたクライアントと打ち合わせが必要。内装が終わり次第、再度技術者、私、クライアントを交えて会議を行う算段だ。時間が掛かっても、思い違いをしないためには必要な過程だと私には認識している。面倒臭がる大工がほとんどだろうが、取り返しの付かない作業の手直しほど時間と労力と資金を要求されるものはないと自負しているので、ここは我慢のしどころだろう。それぐらいは大工側も譲歩するべきだ。もちろん、無理な要求を出すクライアントにも言えることである。できないもの、あるいは突拍子もないアイデアに私ははっきりと断りを入れる。それでいくつか仕事を失ったが私の意に反していてしかも、他の誰かが作り出した作品と同じようにとの注文ならばもっと別の同業者が大勢いる。私はそれらとは異なる、これが私のスタイルであって、認めない人からはそもそも仕事を受けないのだ。

 右手の熱さで目が開いた。手に持ったコーヒーが紙を伝わる熱さで早く飲んでくれと催促の嵐。塗料の香りが漂う、店内で口を傾けた。営業時間はいつまでだろうか、いつが定休日で、土日は営業するのだろうか。膨らんだ構想を忘れないよう頭に書き留め、時間を確認しつつクライアントに電話をかけた。