コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

ROTATING SKY 5-1

 クライアントと約束がある日は、体が自然と目を覚ます。朝といっても日はすっかり昇り、カーテンの隙間から入った明かりが入室を催促しているようだ。打ち合わせで話す順序を起き上がったベッド、起き抜けの頭で反芻。大丈夫だ、見落としはない。

 身支度を整えて腕にはめた時計を見る。午前十時二十分。不来回生は台所に立ち、ペットボトルに口をつけてお茶を飲んだ。ついでに冷蔵庫で処分が必要な食品を探してみると、残り二つの生卵が消費期限を一日過ぎていたので、夕食に卵を使ったなにかしらの料理を作ろうと決めた。料理は定期的に作るわけでないので、そうやって思いつくのは割り合い珍しい精神的傾向だと自覚する。その他冷蔵庫には水とお茶の残りと、あとはビールと炭酸水であった。野菜室は長期保存がきくジャガイモのみ。

 冷蔵庫を閉めて、時間は一分が経過。火と戸締りを確認して家を出た。打ち合わせの場所はクライアントの自宅で、所要時間は二十分程度。場所はS市で同じ区内に位置する。直線距離だとものの十分で着いてしまうのであるが、車は一応道路を通る誰もが知っている規則に従えば、二十分ぐらいかかる。なんでもっと早く車に乗らなかったんだろうかと渋滞に苦心する現状を心配するこぢんまりとした性格でもないので、車に乗り込んでも緊張は微塵も感じなかった。ナビをこの時だけは有り難いと感じつつ示されたルートを辿る。

 大きな通りを選択してくれてわかりやすい道を走行している、目印になりそうなコンビニで左折の表示。住宅や工場も病院も建ち並んだ、不思議な宅地に入り込んだ。一本中に入ると入り組んだ路地を曲がるたびに停止して歩行者を確かめる。何度目かの曲がり角でやっとそれらしき家をみつけた。ナビは案内をしつつ目的地周辺であるとサイレンのように注意を押し付ける。見つけないとと怒られ壊される、人を恐れているみたいだ。

 目印は工務店の軽自動車だった、その後ろに車をとめる。庭・車庫・表札、作りは割と古いタイプかもしれない。周囲の家と比べて宅地造成当時に建てられた家のようだ。 

 出迎えたのはクライアントで年齢は四十代、正確な年齢は忘れてしまった。妻です、と名乗った女性が中へと案内する。黒皮のソファにどっしりと腰を下ろした工務店の社長が手を上げた。私は軽く礼をして彼の隣に座る。すぐにコーヒーが運ばれて、私・クライアント・工務店の社長による打ち合わせが始まった。

 内容としては、極力料金を抑えた工事がクライアンの希望であり、選んだ物件を見てもその要望は理にかなっていた。大工側としては、工事を請け負うことに何の支障もないと口では言っていても、本心としてはもっと大掛かりで長期的な仕事を望んでいたに違いない。クライアントの要求は、店内を金属との対比でドアやカウンターは木を配したもの。それは私に仕事が舞い込んできた当初からの主張で、自分のイメージが固まっていることはイメージを具現化しやすい反面、少しの違いも許さないクライアントの姿が頭を過った。

 ただ今回のクライアントは穏やかでふわりとした性格である為、その点の不安はあまり感じていない。奥さんが口を出していればもしかすると作り直しを要求されるかもしれないが、それもほんの僅かの可能性だろう。今は、考えた構想に納得のサインを貰うためのプレゼンに集中する。いつもやってきたことである、緊張は少しはあるかも。

 カバンから完成図を取り出してクライアントに対面させた。あえてこちらから細かな説明はしないことにした。今思いついた。知りたいという感情で質問をすればこの絵は、クライアントが作り上げたイメージに寄り添っていく。

 思った通り、質問は一つ二つで、ただの確認事項だけであった。大工からの質問の方が多かったのは、嬉しい誤算だ。