コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

ROTATING SKY 5-2

 明日、正確には今日の深夜から工事に着手する。金銭的な支払いは店舗が完成し、クライアントの納得が貰えてから残りの半分を受け取る。早朝までの活動時間であるが小さな店舗だけに一週間を完成の予定と、工務店と取り決めた。

 正午になり昼食を勧められたが、堅苦しい引きつった笑顔を見るのも作るもの嫌だったので仕事を言い訳に断った。工務店の社長はごちそうになっていくようだ、クライアントの奥さんが慌てて店屋物を注文している。バタバタとした隙に私は挨拶を済ませて帰った。快活な笑い声が玄関の戸を閉める時も聞こえた。眩しい。太陽がではない。

 うっすら、雪がボンネットを隠して、フロントガラスで楽しそうに解けた雪が滑っていた。乗り込んだ時にドアの衝撃で慌てた雪が屋根からサイドの窓にも落ちてきた。

 私には食べ物と睡眠だけで十分だ。エンジンを掛けて昼食の候補を思案しつつ、定まらない目的地に思いを馳せた。

 昼の顔が閉じ始めた深夜零時に不来は店舗に到着した。数分前、時計台の鐘で日付が翌日に切り替わったと教えられた。昨日までは内装業者で今日からは店内のカウンターや水回りの設備を請け負う業者がせっせと働いている。挨拶をして軽い自己紹介をした。口を出し無用のめくばせを予感するも威嚇されずに期待はずれ、快諾の表情で微笑をたたえるぐらいに好意的な態度であった。帰り間際に差し入れに何を買うべきかを考えていたぐらいだ。

 通行人が早足で駅へ流れて、改装に興味を抱く者は誰もいない。

 トラックが通りに横付けされた。一斉に作業員が集まり、手洗いのシンクが半透明のビニールに包まれて慎重に下ろされる。これは軽そうだ。重いのはもうひとつのカウンターである。四人がかりで四方を持ち荷台から地上、地上から店内に運ばれた。不来は邪魔にならないように脇にどけて仕事ぶりを観察。

 家庭のキッチンに似せたイメージで店内を構成した。店のコンセプトはくつろげる場所を取り払った、コーヒースタンドであるため、お客が座るような場所は極力排除した形でビジネスマンにテイクアウトのスペシャリティなコーヒーを提供するのだそうだ。悪くはない。良いと言わないのは、私の癖でこれでもかなり褒めているつもりだ。

 設置が完了するとチェックを頼まれた。外でじっと作業を見つめた態度はプレッシャーに感じただろうか、今更悔いてもう遅いのだから、考えるだけ無駄というもの。

 作業は直しが不必要で提示した依頼を正確にこなしていた。オーケーのサインを出す。入り口の右側に、店で扱う商品の飾り棚も搬入された。本棚のように外側は木製であり、一段一段の仕切りはガラスで上下が透ける。大掛かりな搬入は残すところ営業時間に無理を言って頼み込んだガラス屋を待つばかり。仕事だからと割りきって営業時間外の出動をお願いした。あなたの技術と知識が必要なんですと、説き伏せたのが先々週だったか。

 完成は一週間を予定、しかし本来の作業は今日と明日でほぼ完了となる。残りは綻びを抽出するために必要な俯瞰で内側から離れ、空間を観察する期間だ。そうやって見て見ぬふりで騙されていた脳にもう一度捉えなおす機会を与えてやると、当たり前が不自然に見えて間違っていますと、あっちから信号を送ってくる。