コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

飛ぶための羽と存在の掌握1-1

 灰都を送り出すとほんの僅かの隙間で深く息を吸って吐き出す。視力がほぼ戻ったと理知は確信した。駐車場で車のフロントガラスの雪をそぎ落として目的地へと急ぐ。車の鍵はポストに投函されていたのを昨日灰都が郵便物と一緒にとってきていた。家の鍵と車のキーそれに、あの人の実家の鍵、ロッカーのキーが一輪で束になる。

 雪の白さは距離感を奪って満身創痍の理知を苦しめて、それでも彼女はどうにか会社の駐車場に車を収めた。

 ロッカーで着替える。

 昨日の事を同僚に詫びた。

 警察に事情を聞かれた私はどこへやら、目の心配でもうなんともないとこたえるのに疲れたぐらいで、批判を待ち望んでいた私は居場所がわからない迷子の気持ちで仕事に取り掛かった。皆の視線はどれも昨日とは比べ物にならない熱を帯びていると感じる。私だけの錯覚だろうかとも考えてみたが、すこしよろめいただけでも休んだらと手を差しのべられた。私には似合わない。胎内の何処かで囁いてる。ねえ、見てごらんって、どうせ本心じゃないのだからあんたも付き合ってばかみたいに愛想笑いで受け売りで声を出して詳らかさを演じてやれば。

 昼食。今日は食パンにハムとスライスチーズを挟んでラップに包んだサンドイッチを作ってきた。手先の感触で作った料理とはいえない代物。コンビニには空腹でも寄り付かない。私はいつもどこでお昼ごはんを食べていたっけ、理知は思い出せないでいた。あれっ?頭を捻っても腕を組んで唸ってみても空っぽになって忘れたふりをしても、沈下したままだ。

 更衣室を出て廊下でサンドイッチを片手に長ったらしいカタカナの観葉植物に擬態して佇んだ。白衣の二人が会議室に入っていく。思い出した。あそこでご飯を食べていたんだっけ。なんで忘れていたんだろうか、こめかみに人差し指の銃口は脅すには力不足だ。

 踵を返して回れ右、行き先は私だけの襲われた車中。吹雪で顔に髪が飛び散る。信号を待って隣の駐車場へ。車が一台だけ雪を被らずにきれいに止まっている。スモークのガラスで乗組員の姿はみえない。どこから帰ってきたんだろう。

 深く深くシートに体を収める。パンくずだらけになるけど、一時の静寂が勝る。

 ハムが一枚、フライング気味で舌に連れ去られた。

 チーズは律儀にテリトリーを守り、最後まで顔を見せるつもりらしい。

 パンはパンでどこから食べても変わらない性格が売りなようで、構えている分、外側は固い。

 自販機で買ったコーヒーを喉に注ぐ。

 口がはあと、食事の感想を述べた。

 目がふさがり、意識が遠のく。昨夜、朝方まで続いた鼓動のために十分な睡眠はとれていない。今寝れば、休憩時間までに起きられる確信の二文字はどこにもないのだから、起きろと私が内からシャッターを叩くように眠りを妨げた。どんどん、どんどん。どどん、どん。どどどどん。そうこうやって、昨日も心臓が止まりそうなぐらいにノックの音に反応した。マンションの住人が、落とした手袋を拾って渡してくれたんだ。タイミングは襲われる時と似ていた。でもこの音に恐怖を感じない。どうせ同僚のだれかだろう。

 煩いなあ、分かった起きるから、そんなことしなさんなと重たい瞼を開けると、悪夢だと思いたいネクタイが窓ガラスのむこうで振り子の運動。

 催眠術にかかったみたいに悪夢が再現された。