コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

飛ぶための羽と存在の掌握1-3

「かけてみるか?」熊田は携帯を耳に当てた。

「はい」

「お疲れ様です、熊田です」

「どこで見ている?近くにいるんだろう」

「バレていました」

「タイミングが良すぎる」

「以前に事件で顔見知りになった」部長はキョロキョロとあたりを見回してこちらの居場所を探している。部長に知れるのは構わないが、捜査員まで連れてこられてはたまったものではない。熊田は体を滑らせて身を隠した。タバコを惜しんで灰皿に押し付けた。

「彼女が何かしたのか?それにしても雪まみれになったのは何十年ぶりだろうか」感慨深げに、ノスタルジィを語るのは部長も高齢である証拠。それでも押し付けないのは及第点である。

「その人は昨日襲われまして。それで見張りをつけているんです」

「ほおー、ただの暴漢に上層部の連中とお前と……種田も一緒か」

「ええ、まあ、そんなところです」

「寒いからそろそろ切るぞ、手袋を持っていないんでね」

「あっと、部長待ってください」

「なんだ」

「何の捜査です?今調べているのは」熊田は切り出す。

「言えないな。言ったら俺も危険だ。お前はもっと危険だ」

「それどういう意味です」意味は理解していた。その先を知りたいのだ。

「言葉通りだよ」電話が切れた。

 種田が聞く前に答えた。熊田なりの親切心である。「部長からだ。理知衣音とは以前に事件で知り合ったらしい」

「偶然にしては現れたのが突然過ぎます。彼女の以前の事件というはなんでしょうか?」

「それも鈴木たちに調べてもらうか」

「相田さんは、ぼやきますよ」

「構わんさ。口ではああやって面倒臭がるけど、頼まれた仕事はきっちりとこなす」

「評価が高いのですね。では、鈴木さんは?」

「あいつは、そのままか、もしくはとんでもない内側を抱えているかもしれん。まあ、どうでもいいがな」

 理知衣音が車から出てくる。何事も無い様子だ、表情までは伺えないが、すくっと地面に立ち、恐怖で胸の前を押さえる仕草はない。驚いたのはたぶん、顔を覗かせる部長を知り合いだと気づくまでだろう。部長は彼女に手を上げて去っていく、住宅の側面に部長が消えていった。捜査員は彼女と会話を交わすと、待機車両に戻った。彼女は午後一時前に会社へ帰還した。

「彼女が帰るまで見張る意味は無いだろう」

「社内に犯人がいたとしたら」

「また、ノコノコと会社まで押しかけて彼女に怒鳴られたいのか?」

「命には代えられません」

「食品工場内にスーツを着た社員が何人いると思う?事務や営業の社員が数人がいいところだ。他の社員にあやしまれる。我々も彼女を襲った犯人も」

「わずかでも、襲われる可能性はあります、白昼堂々と薬品を浴びせかけたのですから、建物への侵入も逃走のリスクを追ってでも行動に移しかねません」しかし、警告ならば済んでいる。彼女が襲われるのはこちらの思い込みかもしれない。さらに言えば、理知衣音の証言で、犯人は助手席から出てきたと言っていた。つまり、運転手である共犯者の存在が浮かび上がる。これはあらかじめ逃走も行動に組み込まれていたと考えられる。

 熊田はエンジンをかけた。捜査員たちに見つからないように、十字路を東へ進路をとる。

「監視は諦めるのですね」種田はシートベルを締めて、抑揚のない音声で言った。

「嫌がらせのエスカレートなら病院で警察に話しただろう。それに監視はあの連中で十分だ」熊田の発言から、種田はいつものだんまりに戻ってしまった。これが通常の種田で、今までがしゃべりすぎていたのだ。運転手も相手に便乗して不用意な言葉のやり取りを中止。雪の衝突音が車内を包んでいた。熊田は途中でタバコを吸いたい衝動に駆られたが、黙るだけで自分の機嫌が悪いと解釈し、今日は無理やり種田の前で煙草を吸ってしまったので、仕方なく、我慢を決め込んだ。