コンテナガレージ

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飛ぶための羽と存在の掌握6-1

 暖房が良く効いた会議室に呼び出された面々が浮かない表情で入室した。管理官、その他二名の上層部の捜査員が待ち構えていた。管理官は響く声で話す。

「ほう、滅多にお目にかかれない部長殿が今日はいらっしゃる」

「どうも」部長は当たり障りなく挨拶を交わす。種田は後方で部長の動向を伺う。

「まあ、いいさ」管理官は咳払いをする。「えー、お前たちを呼んだのは他でもない。昨夜、不来回生が死亡した。知らないとは言わせない。なにせお前たちから引き継いだ情報を元に調べを進めていた矢先の出来事だ。現在のところ、事件、事故の両面で捜査に当たらせてるが、目撃者の証言から事故との認識が強まった。ブレーキ痕はなし。また衝突前の交差点で不来の車に衝突した車の挙動がおかしかったとの報告がある。交差点の監視カメラに映像が残っていた。未発表の情報だが、運転手の死亡が先刻病院から伝えられた。これから司法解剖だ」何を言ってるのだ、と熊田は感じた。上層部がこちらに情報を、それも直接面と向かって伝える状況が考えられない。

 管理官は心なしか威圧感を抑えているようだ。

「おまえたちに、その、なんだ、捜査を再び始めてもらう」

「はい?」熊田は聞き返した。

「手詰まりですか?」種田が遠慮なく質問を投げかける。空気が張り詰めた。

「見くびってもらっては困る。人材は豊富で有能な者が揃っている。どこかの掃き溜めとはわけが違う。格が違うのさ。お前たちに捜査を任せるのは効率を考慮して算出された緻密な計算だ」

「そちらに渡した捜査情報は開示されますかね」熊田がきく。

「ああ、許可は与える」

「質問があります」種田が言った。

「なんだ?」

「理知衣音が通り魔事件の被害者であることはご存知でしょうか」

「知っている。それがなんだ」

「今回の事件は、通り魔事件から繋がるように思うのです」

「理知衣音以外にも通り魔事件に関与した者がいるというのか?被害者の身辺は隅から隅まで洗ったが、関連は認められない」

「おい、まだ終わってないぞ」立ち去ろうとする部長を管理官が呼び止める。渋々部長は所定の位置に戻る。「……あんた、なにか掴んだようだな」不審な部長の態度を管理官は見逃さない。

「いいえ、上層部が理知衣音の過去の情報まで行きついていなかっただと知った。これだけです」

「出し惜しみはためにならないぞ」威圧を込めた管理官の発言が部長に送られる。

「何度でも言えます。繰り返しましょうか?」

 数秒間二人の視線がぶつかり合う。「結構だ」管理官が折れた。「……熊田、捜査は任せたからな」

「はい。私からも質問があります」

「なんだ?」ため息混じりに管理官がきく。

「捜査の指揮権が二転三転と他部署を渡り歩くのは、どなたの指示でしょうか?」

「聞いてどうする。進言でもするつもりか」

「私が捜査をしても良いのかどうかと思いましてね。おそらくその方々は私をここへ追いやった張本人でしょうから。どの面を下げて再捜査を始めようと思い至ったのかが、引っかかりましてね」熊田はたっぷりを嫌味を込めて言った。”その方々”とは管理官を含めた目の前の三人である。

 キリキリと奥歯を噛み締めて管理官の片側が歪む。「いい気になるなよ。お前は面の皮一枚で警察にいさせてもらっているを忘れてやしないか?」

「誰も忘れたなどとは言ってません。だからこその質問です。今回の捜査でまた捜査権を剥奪されれないように」

「……食えないやつだ。正直に言うが、こちらとしては早急に解決か事故かの結論がほしい。一週間以内の報告を望む、以上だ」管理官たちが立ち去ろうとする。

「そんなあ、無理ですよ」

「やってみる前から、弱腰か」去り際の管理官はぼそりと鈴木のぼやきに返答して種田たちの視界から消えた。

 予期せぬ形、上層部に半ば押し切られる形で種田たちに再捜査が命じられた。

 付き添いの二人は何のために会議室にいたのかと種田は事件よりもそちらが気になった。鈴木はドアが閉まるまで両肩が上がり、息を止めていたようで遮蔽音と同時に呼吸を乱した。

「部長?」熊田たちが入室した後方のドアに部長が手をかけていた、ドアは既に開いて、あとはするりと体を入れる一場面を残すのみ。

「あとは頼んだ」低い声で部長が答えた。

「捜査には加わらないのですか」熊田が大きな声で届くように言う。

「指揮者が二人もいたら演奏は台無しだ。よろしく」

「ロックスターみたいですねえ」感心して鈴木が呟く。

「面倒くさいだけだろう、あんなの」相田は長机の端に腰を下ろしていた。

「いいえ、案外的を射ていますよ。僕もどこかで使ってやろう」ふんふんと企みの鈴木。

「日の目を見ずに大事に胸にしまわれるのがオチだろう」片手を広げた相田が悲観的な発言でこたえた。

「そんなのわかりませんよ」

「あの」種田が言う。「今後のプランは?」熊田に尋ねた。