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飛ぶための羽と存在の掌握6-3

「触井園京子は天涯孤独だって思いましたけど、違うんですね」上層部の資料によれば、触井園京子は東京の出身で父親は建設会社の役員、母親はジュエリーショップの社長との記述がある。熊田たちの捜査では道外の情報を入手するのは困難を極めるため、ここで管轄外の情報を初めて目にしたことになる。死体を引き取る時期にはすでに熊田たちは捜査から外されていた。そのため、被害者の引き取り手である両親の情報はもたらされずいたのだ。

「縁を切ったか、どちらかの連れ子か、親子関係は詮索すればドロドロした因縁の宝庫さ。上層部は両親に連絡を取ろうとしてもずっと不在で電話にも出ないらしいし」頬杖をついた相田は資料の山埋もれたデスクで資料の一枚に書かれた内容を鈴木に伝えた。

「じゃあ、両親にも彼女を殺す動機が存在したんですよ」

「事件当日のアリバイも、その前後の日程も両親は東京で仕事をしている。父親は前日に接待ゴルフを受け、当日の午前中は毎月の定例会議に出席と資料に書いてある」スナップを効かせた相田の裏拳が束の資料をノックする。

「ゴルフは何時に終わったんでしょうか。急げば死亡推定時刻に間に合いますよ。ねえ、熊田さん?」鈴木は眠そうな熊田にきいた。

「自ら手を下さずに殺せる可能性もあるだろう」

 熊田の言葉に鈴木は頷いて一言。「殺し屋を雇ったのか……」

「このご時世にいるわけ無いだろう。漫画でもあるまいし」その発言を相田が真っ向から切り裂いた。

「だったら母親ですね。憎くて目障りだからいっそのこと、殺してしまおうと思いついたんです」

「急すぎる心境の変化だな」鼻で笑った熊田がとっぴな鈴木の意見を否定もせずに言葉をなぞる。

「母親は当日の朝、定刻に出社し午後一時までは会社からは出ていない、と報告書にはある」相田が補足した。

「社長の周りで口裏を合わせれば、飛行機に乗って帰ってこられますよ」パチリと鈴木は見開いた目で訴える。

「出社の時刻は八時半。自社ビルの受付や社員が社長を目撃しているし、そこからスムーズに飛行機に乗れたとしても空港についた頃が相田が死体を発見した時間だ。母親が直接手を掛けたとは思えない」

「やっぱり殺し屋かあ」鈴木の意見が最初に戻ると相田が姿勢よく座った種田に声をかける。

「種田、暇そうにしているけど資料は読み込んだのか?」

「はい」

「今は何をしているんだい?朝からそうやって黙ったままだろう」

「考えています」

「それで?」

「なにも」

「なにもってことはないだろう。取っ掛かりぐらいは掴めたよな?」

「いいえ」

「はああ、どいつもこいつも」

 熊田がおもむろに席を立った。皆の視線が彼の動向に集中する。

「どちらへ?」鋭い種田の視線が尋ねた。

「ちょっとそこまで」

「抽象的過ぎます」

「コーヒーを飲み行く」

「あの店ですか?」

「ああ」

「では私も」

「いいや、一人で行く。昼飯までには帰ってくる」

 終始上の空だった熊田が退出したとたんに鈴木が文句を言う。「熊田さんも堂々とサボるようになりましたか」

「あの人に聞きに行ったんだろうさ」首を回す相田が相槌の要領でこたえた。

「日井田さんですか?しかし、もうたぶんあの人答えてはくれませんよ」

「どういうことだよ?」右に折れた首の相田が問う。

「あまりにも僕達が物騒な話をするもんだから店長から怒られたんです、僕」

「それはお前だけだろう?熊田さんは無関係だ」

「そうでしょうか。案外あの店長はしっかりと忠告しそうな感じでしたけどね」

「お前が喋り過ぎなんだろう」

「店ではこんなにペラペラ話しませんよ。もっとこう落ち着いた男性を演じてますから」