コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

夢が逃げた?夢から逃げた?3-1

 転がるよう駐車場に出た鈴木は自分で車を運転してきたのだと、愛車の存在をすっかり忘れていた。熊田の車は既にエンジンがかかり、動き出していた。行き先を聞いていない鈴木は見失わないために素早く冷たい運転席に乗り込む。しかし、こんな時に限って、エンジンは三回目の合図でやっと動く。

 熊田の車が右に曲がった。かろうじてウインカーの点滅を確認。それからは見失わずに目的地まで後を追えた鈴木である。車中、携帯で種田に行き先を聞くことも可能であったが、追跡もままならないのかと言われそうで控えたのだった。

「理知衣音のマンションか」訪問客専用の車止めに熊田に続いて鈴木も停車。駐車場は日々の出入りの激しさで積雪と格闘の様子が伺える。うず高く積もれた周囲の歩道とは異なり、マンションの敷地は整頓されていた。鈴木は熊田たちに小走りで駆け寄る。「彼女、仕事ですから家にはいませんよ?」

「日曜に休みって誰が決めたんだ?」熊田が怠そうに答えた。ドライブに神経を使ったのだろうかと鈴木の憶測。かたや隣の種田は、かわり映えのない表情である。彫刻みたいだ。

「私になにか?」種田が鈴木の視線に疑問を抱く。

「いや、なんでも」

「なんでものあとは、なんです?」

「ない」

「そうですか」二人をよそにずんずんと熊田はエントランスを抜けエレベーター前に移動していた。遅れた二人がたどり着いても、エレベーターは上階から動かない。刑事たちの首は急角度で固定された。

 鈴木が言う。「止まってる。なんでしょう、引越しかな」

「鈴木はここでエレベーターを待て」そう言うと、熊田は非常階段の重厚なドアを引き開けて行ってしまった。無言で種田も追従。見事に一階に取り残された鈴木である。

「またかあ。なんでこういう役回りなんだか」鈴木はあからさまにため息。「それにしても、動かなすぎだろう」

 鈴木はエレベーターが起動する合間にふと思いついたことを確認した。エントランスを出て駐車場の理知衣音の車を探した。記憶を辿どるが所定の位置に彼女の車はなかった。マンションであるから、所定の位置をあれこれを変えるわけもなく、また視認できないほど広い駐車場でもないためにパッと見ただけで車の有無は知れてしまう。

 寒空から引き返すと、エレベーターが動いていた。手をポケットに入れて箱が降りてくるを待って乗車。しかし、中は想像の引越し業者や家具のたぐいはなく、人も乗っていない。首を傾げながらも鈴木は四階に運んでもらった。

 降り立った、廊下の様子は騒然としていた。

 女性の悲鳴が反響する。

 廊下に熊田の種田の背中が認められる。二人が邪魔で対象物の姿かたちは見えずじまい。声はずっと奥のほうで発信源がみとめられた。マンション住人の言葉にならない叫び声は多少がおおげさな響きにも聞こえた。驚いている声に驚いたみたいだった。

「来るな、これ以上近づいたら、刺してやる。本気だからな!」お願いなのか、それとも命令なのか、言葉は両方にとどまらずに行き来している。

 甲高く声変わりのしていない少年の声である。熊田と種田が一列に重なりあったタイミングで鈴木はやっと対象物捉えた。ドアの前に理知衣音の息子、灰都が睨みをきかせてその場を死守。彼は両手にキッチンで使用するペティナイフを握り締めている。