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夢が逃げた?夢から逃げた?3-5

「なんでまた、ナイフを持ちだしたんだろう?母親が刃物で自殺を図ったからだろうか」それとなく二人に考えていた意見をぶつけてみる、独り言のように控えめを装って。

「あの子の証言は?」窓を見つめて熊田が聞いた。

「何も。泣いてもいません」

「親が亡くなったのに?」鈴木の声は高くなる。自覚はある。

「父親を亡くしている、その時に悟ったのかもしれない。泣いたって何も解決しないと」

「まだ子供なのに……」

「可哀想とは、言わないでください」鋼のような硬質の心で種田が願い出た。「死を受け入れるのに年齢は関係ありません」

「唯一の家族がいなくなったんだぞ。悲しむのは当然だろうが」誰に対する感情の高まりだろうか、鈴木は言葉を発してその発信源を探すが、体内にはそれらしき影は見つからない。

「今後の自分が不安定だから、泣くのです。進むべき道が見えないから不安で恐ろしいのです。だから、あの子は状況がよく見えているのかもしれません。安心して身を預けられる居場所を次に見出している」

「頭が良いとは成績の良し悪しではない、あの子は自分で考える頭を持っている」熊田が言う。「初めての聞きこみのとき、帰り際の私に、母親に悟られないようにわざわざエントランスで声をかけてきた。……ナイフを持っていたのは、ナイフは命を絶つ道具に成り代わる、そう認識を改めた。だから我々に刃を向けた。恐れると思ってな」

 悲しみは時として人が理解される範囲でのみ抽出される。本来ならば当人いいや当人でさえも全容を把握しているものなどごく僅か。殆どがこれまで見、接してきた体験を変形させて当てはめている。一方では、幸せでも他から見ればそれはものすごく不幸でありきたりでつつましくて意外性のない厳しい現実。それも外側から世界を覗ければの話で誰もすべてを世界を比較できない。

 いくらも楽しいと思えるのは本人の心。見方。捉え方。角度の違い。僕が悲しんでもあの少年には影響しない。そもそも彼は助けを望んではいないのかもしれない。そうであったなら、ただの自己満足でやはり自分が本意。世界は私を中心に動いているとしか思えない。間違って。指摘を受けて。訂正。でもまた、自己欺瞞に陥る。終わりはない。

 これが永遠の世界。悟ったらおそらくはなにもしない。黙ってなすがまま現状が過ぎるのを待つだけ。優しさとは傷つかないための鎧ではなく、相手を傷つけないための剣なのだ。だからこうして鞘に収めている。振り回さないように。

 たまには切れ味を確かめたくなって、植物を切り始めると手に負えない。だって皆がそうして振舞っているの私だけは許されないってどういうことだと反旗を翻す。でもよく観察して欲しい。振りかざした者たちは一様に傷を負っている。それでも前に進むために周囲の植物をなぎ倒し道を開拓する。傷口から侵入した毒に犯されているとも知らずに。私は、僕はまだ、剣を収めたままだ。獲得している者たちに憧れも抱いたが、彼らは利用されているとは思っていない。私は私でいたい。