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夢が逃げた?夢から逃げた?4-1

 相田はインフルエンザにかかり、休みを取った日から一週間を休養にあてた。完治するまでは現場に出てこられない決まりで、熱は三日目の朝には引いていた。残りの四日は家から出られない不自由さを兼ね備えた、つかの間の休日を満喫していたらしい。

 理知衣音の死から二週間後。また、この課に静寂が訪れた。熊田は先程から新車の説明書を読みあさる、鈴木は買い換えた携帯電話をあれこれと指先でいじるのであった。相田は、暇を持て余して本日三度目の喫煙で席を外してる。部長の席は今日も無人で、デスクと椅子は主人の帰りを健気に待ち続けてるように見えた。

 正午を回り、待機の者を一人残してそれぞれが昼食に出掛けた。サボってばかりの相田が留守番の役に任命され、相田も長期間休んでいた後ろめたさもあり、素直に了承した。鈴木は一階から更に地下へと降りていった、どうやら食堂で食べるらしい。熊田はつかつかと玄関に向かう。

「どちらへ?」種田がきいた。

「コーヒーを飲みに行く」種田の呼びかけに熊田の速度は落ちない。

「あの店ですか」

「お腹は空いていなからな」

「私も行きます」そこでやっと表情を捉えた。締りのない表情で瞳にも光がない。

「何も言わない、そう約束できるか?」種田は少々迷ったものの、仕方なく受け入れることにする。署内で黙っているよりかはだいぶましであると比較した結果である。

「構いません」

 熊田の手が軽く振られた。

 春の陽気は眠気を誘い、最高気温はプラスを記録、手放せなかったはずのジャケットのジッパーは開放状態が通常となりつつある。喫茶店の軒下は厚みが増した雪の重なりが垂れ下がる。

 二人は店に入った。

 カウンターに二人、何度か見た顔が談笑、制服を着た女性がテーブル席に、歯医者か病院か、はたまたエステやマッサージか、とにかく淡い色の制服であった。カウンター奥の席に二人は着く。日井田美弥都が水を運んできた、熊田は種田に何も聞かず、コーヒーを二つ注文する。熊田はすかさず煙草を火をつけた。車中はタバコを吸うどころの騒ぎではなかった。溶け始めた雪で轍にハンドルを取られまいと操作に必死だったのだ。

「これで不具合のM車を所有していた者、不来回生が交通事故で死亡。理知衣音も亡くなりました。触井園京子は何者によって殺害されたと思われますか?」唐突に種田が質問。間を埋めたかったのではない。率直な意見だ。

「犯人と被害者に繋がりがなくても、依頼されたのなら他人でも犯行は成立する。そうなると、怨恨から辿り着くのは不可能だろうな」熊田は言葉を切る。「あるいは、意味なんてないのかもしれない」

「偽装を図ったのにですか?」

「見つからないように偽装を施したとは限らない。真逆の見つけてほしいがためのサインとは考えないのか?」質問を質問で返された。種田が黙ると熊田が続きを話す。「あえて凶器を持ち去り、密室を創りだした。これは、挑戦や認められたい欲のためだと思う」熊田の見解は日井田美弥都の意見を元に構築されたと考えるべきだ。当初、密室の意味合いは、ただの偽装であってより深いメッセージは見出されてはいない。むしろ、犯行の隠蔽と捉えていた。