コンテナガレージ

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夢が逃げた?夢から逃げた?4-2

「世間では能力を認められていない者ですか……」種田はコートのボタンを外す。「自分さえ認めていれば私は満足です」

「そう割り切れる人間は少ない。上辺でも褒め言葉がほしいのさ。もちろん、そのために生きているわけではないが、アクセントとしての機能だ。毎日白米ばかりでは飽きるだろう。たまにはふりかけがほしいのさ」

「私には白飯しか見えていません。そもそも目移りすること自体、白米を軽んじています」コーヒーが運ばれてきたので種田はそこで中断した。灰色の生地に覆われた、ほっそりとした腕が二人の空間を切り裂くように間から真っ黒の液体。

「随分と物騒なお話をしていますね。ボリュームは抑え目でお願いします」半円を描いた目と微笑みを浮かべて美弥都はカウンターに戻った。

「事件は未解決のまま捜査が打ち切られました」熊田は美弥都の背中に投げかける。トレーを胸に抱えた美弥都が振り返る、束ねた黒髪がふわりと舞った。

「仕事中です」真っ直ぐな視線が熊田に注がれる。種田は半身でその様子を窺う。

「理解しています。しかし、私は真実が知りたいのです。ご助力お願いします」

「もう事件は起きない、そう言ったはずです」

「ええ、ですが、今後の捜査のためにも不審な点は解決しておきたいと、思うのです」美弥都はテーブル席に呼ばれた。追加の注文をカウンターに入り、つくる。店長は常連客と談笑。これも仕事のうちだろう。滞在時間の長い常連よりも無言で定期的にまた、短時間で席を空けてくれるお客を店は望んでいるのではないのかと、種田は勘ぐってしまう。ただ、おしゃべりが好きなのであれば本望か。

 身を乗り出して熊田が聞いた。「日井田さん、どうかご協力を」

「……」美弥都は無反応でお湯をカップに注ぐ。

「あの……」

「集中していますのでお話なら後で」キツい口調で美弥都が返答したものだから、店内の談笑が一時停止、種田の後方と右側から視線が注がれる。ついさっきまでくだらない話に花を咲かせていたのに……。

「美弥都ちゃん?」店長が様子を窺い、声をかける。

「なんでもありません。現状をお客さんに伝えただけですから、ご心配に及びません」

「そう、ならいいんだけど」二度ほど盗み見た常連客に種田は向き合ってみた。すると、相手は驚いて観察を取りやめる。後方の視線はまだ感じられたが、視界に入らないので放っておくことにした。

 二杯目のおかわり、熊田が美弥都に注文。灰皿は吸殻で埋まる。コーヒー提供の際に美弥都が新しい灰皿に交換した。熊田は最後の一本を取り出して煙草のパッケージを握り潰す。店長がご機嫌で店を出て行った。常連客もやっと長期滞在を引け目に感じて数分前に席を立っていた。二階にお客はおそらくはいないだろう。

「日井田さん?」探るように熊田がカウンターの美弥都に尋ねる。熊田の手元では胸ポケットから取り出した新たな煙草の外装フィルムが剥がされている。

 タップリと時間を掛けて、美弥都が返答。「なんでしょうか?」手際よく、コースターやカップが片付けられていく。こちらの動きも観察している、時々どきりとする視線とぶつかった。