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焼きそばの日1-2

「どういう日?」

「すべてっていうのは冗談ですけどね」小川は舌を出す。「まあ、でも、焼きそばの日は間違いなく今日ですよ。ニュースで見てきましたからね、この充血した徹夜明けの目でね」

「そう自慢されても」店長は冷ややかに応えた。焼きそばの日。一年を通じて好き勝手、独断と利益を見込んで制定されたような日だろうか。祝日とはかけ離れすぎて、しかし、回りまわって許される現代かもしれないと、店長は思いをめぐらせる。

「テレビの受け売りを私なりの解釈を交えて話しますとですね、起源は東北のどこだったかな、まあ北国の町おこしが発祥らしくて、毎年人集めに役場や観光協会が中心となって週末に学校のグラウンドで店を開けてたのかな。そこで振舞われた焼きそばがおいしいって評判で、年々会場と集客数が倍倍に増えて、去年、いいや一昨年か、メディアが取り上げ、全国区のイベントに発展。国か政府が動きだして、焼きそばの日を今日に入れ替えたんです」と小川。

「よく覚えてるね」

「ははは、まあ、これでも一応黒板を見ただけ授業の内容は覚えられましたからね」

「だったら、料理の腕を上げる努力を惜しまないことね」厨房のもう一人の従業員、女性にしては長身の館山リルカが姿を見せた。「おはようございます」

「おはよう。あのさあ、二人ともやっぱり出勤時間が早いよ。給料は出ないからね」

「それは店長にその言葉を返します、そっくり。着替えてきます」館山のすらりとした後姿が奥の通路に消える。

「小川さん、焼きそばは他の飲食店でも、そのしばりは適用されるの?」

「もちろんですよ」小川は腰に手を当てて応える、ドリンクの効果が染み渡ってきたようだ。「お客は求めてますよ、今日は焼きそばだって。和食の店が急に焼きそばをメニューに加えるのには違和感がありありですけれど、でもうちの店だったら、焼きそばは許容範囲に収まります。和洋折衷ですもん」つまり、店の焼きそばを目当てにお客は足を運ぶ可能性が多少なりともあるということ。お客はランチに今日も足を運ぶ。そして、今日が特殊な焼きそばなる日であるのなら、時間の支配、流行の選択を今日だけだからという理由によって手を伸ばすか。期待の裏切りもときには必要。

「……小川さん、カップの容器を大至急買ってきて。ランチで焼きそばとスープをセットで提供する」店長は厨房の床を眺めた数秒後に、彼女に向き直って、指示を出す。時節に乗らないわけに行かない。お客が求める料理を提供するのはこの店の、店長のコンセプトである。