コンテナガレージ

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焼きそばの日3-1

 午後一時を過ぎた時計。最後のお客を見送り、店内はがらりと表情を変えた。引き出された椅子が滞在の名残を表現して止まない。暑さも加味してか、店員たちは疲弊。今日は月曜日。昨日が休みであったので、おそらくは休日の体を引きずっていると思われる。

 ランチの仕事を終えた館山リルカは、駅を足早に通り抜けていた。S駅から一本O市側に入った南下する通りを進む。

 ビル街にひっそりと観光名所に成り下がった時を伝え目的を失う時計台を横目に、通りを渡った市役所に滑り込んだ。地面から生えたアスファルトを押しのける草が目立つ駐車場、その奥まった場所の建物が市役所である。贅を尽くした造り。市民を迎える駐車場にしては広すぎるし、入り口では料金も徴収している。運営の二文字においてはどこも金銭が絡むということだ。街中の駐車場が割高であるという錯覚が、車で足を運ぶ市民の感覚を鈍らせる行為。

 館山は不満と別れを告げる。そういう場合ではないのだ、今は。現在は出店準備のため市役所に店長の住民票を受け取りに来たのだ。

 ランチの営業が終わった直後、営業中に声を上げた男性が姿を見せて、フェスティバルへの出店を依頼したのであった。フェスというのが、最近の呼び方。最後まで言うと単なるお祭りというニュアンスに聞こえてしまう。野外ライブがメインのパフォーマンス、ショーの演目で、その脇を固め、お客が帰らないように引き止める飲食の提供をあの小柄な男性はうちの店にお願いをずうずうしく申し出たのである。

 焼きそばパンの味に感銘を受けたらしい。しかし、店長は当然のごとく出店など微塵も考えていない、断りは即答だった。あまりにも早くて相手の男性が笑ったぐらいである。ただ、男性もそこから引き下がろうとはせずに愚直にまっすぐに真剣にありのままに、信念を突き通す、恥じらいのない熱量を帯びた訴えを続けた。しかし、そういった努力や注いだ労力の時間で物事を判断しないのが店長である。

 彼女は駐車場を右手に見ながら区役所の表現に困る整然とした、それでいて銀行とも歯科医院とも異なる突き放すような冷たさが漂うフロアに足を踏みいれた。カード式の受付機器が入り口を入った左手、壁に並んでいるが、誰一人利用者はいない。辺りをきょろきょろと眺めて、案内板を見つけ、二階に上がった。室内の真ん中にエスカレーターである、ここへ来るといつもデパートを想像してしまう館山だった。

 必要事項を記入した用紙と委任状を持って受付に提出する。ここはまさに銀行そのもの。郵便局でもいいが、カウンターまでの広さは銀行の方が適した表現だろう。また、新しい床に使用された材質、LEDライトの照り返しもそうであるか、館山は番号札を握り、ぼんやりと空間を見つめた。思考はそして再び、休憩時間に市役所を訪れた理由に舞い戻る。