コンテナガレージ

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焼きそばの日3-2

 男は川上謙三、こちらが聞いてもいないのに大々的に名乗った。名刺は彼女のパーカーのポケットに入っている。彼は毎年開催され今年で十四年目を迎えるロックフェス、island nation in the far eastのフードブース統括責任者であると名乗った、名刺にもそういった文字が書かれていたように思う。

 フェスにおける食の権限を持つ川上が、頭を下げたのは異例のことらしい。川上が電話連絡で呼び寄せたフェスの関係者(集まった数人は食事に関しての権限は持たない別部署の責任者)が口々に彼の異様な行動に驚愕していた。店長は関係者に不本意ながらも焼きそばパンを振舞った、小川安佐をアーケード街のブーランルージュまで走らせ、パンを人数分購入させた。ランチで提供したパンとは種類が異なることはあらかじめ伝えている。

 味の感想はもちろん、大満足だった。おいしいに決まっている、店長が作ったのだ。改めて言うことでもないが、店長は味を抑えて料理を作っているように思うのだ。どこかのガイドブックが定めた料理も店長の手にかかってしまうと、容易に出来上がるのは目に見えている。しかし、作りはしない。日々この店を目当てに足を運ぶお客にとって一度きりの濃く、舌に刻まれる、誉れ高い味はたまにで十分。習慣的に口にするものとは土俵が異なると言っていた。

 名前が呼ばれた。店長の名前である。私はちょっとどきりとした。勘違いもはなはだしい、そういった感情を表には出さないと決めていたのだと、館山は自分を律する。彼女は先日のバレンタインデーの近日に出くわした、国見蘭と店長の倉庫でのやり取りを思い出す。一緒に帰宅する約束の取り交わしを間違って耳に入れて押しとどめた気持ちに針が触れたのだった。後日、事の真相は国見が何者かに刃物で切りつけられたことが深夜の帰宅を頼んだ要因だったらしい。館山は情報を掴んでいる小川から無理やり、その情報を聞き出していた。