コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

焼きそばの日3-3

 住民票を受け取って市役所を出た。休憩時間のため、外で時間を潰すつもりだったが、住民票を口実に館山は店に足を向け、帰還した。いつもならば休憩を取るように店長に言われる。今日は住民票を届ける使命によって店内の滞在を認めてもらう作戦、ひとつでも多く店長から手技を学びたい。店長は、何も教えてはくれないのだ。

 ある日、覚えられない作業工程をゆっくり、その作業を行うように店長に求めたら、怒られるどころか店長は素直に応じてくれた。しかし、その理由は予期せぬ内容だった。

「やっと自分から求めるようなったね。その感覚を忘れないように。僕が教えられるのは工程の手技じゃないんだ。それなら他の店でも本でもネットでもどこでも拾える。僕が館山さんに求めるのは、工程を行う理由を突き止めることだ。一つの手技は次の工程に繋がり、最後には完成品、皿に載った料理に姿を変える。そして料理はお客の口に運ばれる。ここまでを考えて欲しい。あまりにも単純だ。わかっている、物足りなさをね。だけど、根本の理解をおろそかにしていたら料理は作れないよ。作れるかもしれない、だけど、それを僕は認めないし、食べたいとは思わない。君はここで何をなすべきなのかを毎回問いかけなくてはならない。指導はしないよ、君を認めているからね。だから、君が気づいて行動に起こす時を待っていたのさ。僕の発言は君のきっかけにならない」

 私の料理への熱量は時々冷める。だから、こうして思い出す。 

 店長がフェスへの参加を決めたのは意外だった。六月の祝日と休日の連休が続く日程が大きく関与したと言えるけれど……。

 まだ風が強い春の陽気はじっとこらえて桜を眺めるには早すぎる季節だ。道路を挟んだ時計台を取り巻く観光客の黄色い歓声が届いた。普段ならば出さない声を人目をはばからずに。人前で騒ぐのは私には不向きな行為だ、たとえ気の置けない友人とでも、片思いの人物とでも、それは絶対に果たされないに決まっている。もしかすると、ああ、そうだ、不可能を決め付けたいがために私はおみくじやお金を支払う願いごとのように意志を結びたいのかも。

 館山はそぞろ歩く観光客を避けるように、青信号での横断を諦め、次の信号を待って南下を続けた。路上のパーキングエリアに駐車する白い外国車が張り裂ける爆音を奏でて止まる。運転手には撒き散らした走行音は聞こえないだろう。注目を浴びたい、見て欲しそうな運転手の表情が特徴的だった。