コンテナガレージ

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焼きそばの日8-2

 その日、店長は久しぶりに休憩を取って、フェス用のパンの相談にブーランルージュを訪れた。無口な主人と会話は、一言二言。あまりにも傍目から不安視される言葉数の少なさだったようだ。しかし、言葉は多くをすべてを日本語に頼って詳細に語れば伝わるというものではない。互いの知識と経験がかみ合ったなら、平然と挨拶を交わすように意志は通う。店長が質問、パン屋の主人がそれに頷くか、否定の音声を発するかの二択。ただ、食パンの水分や時間経過による味の変化については互いの言葉数は増えた。その部分をどうやらパン屋の店員は聞き逃していた、と思われる。

 懸念していたコッペパンの保存時間は、味の劣化に問題はないとのこと。またアイスパン用の食パンについては明日の午後に試食品を届けるとの算段を取り決め、店長はパン屋を後にした。午後の日和、道行く人の肌が徐々に露出されつつある季節か。店長は行き交う人物にこれ以上の詮索を持たないよう意識を遠ざけた。

 そして、次の日。店に届いた食パンは既にカットされた状態で配送された。厚さは均一、二センチの厚さに切り揃えてある。早速、ランチ終了後の店内にて過ぎ去った熱気を再び厨房に起こした。

 パンに挟むアイスクリームはバニラ、チョコ、マーブル味を揃えたが、シンプルな味わいを楽しむため、または甘党以外の嗜好でも楽しめるようにバニラを選出。お客がトッピングできる蜂蜜とメープルシロップを設置したらどうか、という小川の提案を採用した。ただし、蜂蜜は固まり易いので、いつでも取り替えが可能な物も用意する、と従業員には伝えた。

 厨房に集まる全員で出来上がりの試作品を食べる。食パンは四等分にカット、切れ目にアイスを挟みお客へ手渡す。ちょうど、低くサイズのカツサンドが類似した形。紙の袋は、二辺が空いた形状を利用する、これは店頭のランチメニューでたびたび売り出すハンバーガーの包み紙を代用したものだ。フェス用の紙を新たに発注することは考えにすら入れていない店長である。

 溶けたアイスがパンから染み出して、紙をついた外に漏れる状態は、二口で口に入る食べ易さに変更したことで、改善は達成できたといえようか。厨房の高温の環境下で、ゆっくりと時間をかけて、小川と国見が食べても、紙を染み出すアイス垂れは確認できなかった。

 合格点を与えて、次の作業へ移る。貴重な従業員の休憩時間を消費しているのだから、いくらフェスの出店といえども、従業員の体力は今日の営業をこなしつつ、フェスの取り組みで、衰えている。最低限の休息は必ず取らせるべきなのだ、店長は提供品を見極め、時間経過への意識も忘れない。

 アイスパンの審査が完了した。次は焼きそばパンの最終的な味付けの仕上げに入る。フェス出店を決めてからというもの、焼きそばの味に何度か改良を重ねた。店頭販売の場合はやはり味付けの濃さは重要であるとの認識があっても、店の看板を前面に出した商品である。ほかとの差別化を図るとすれば、食べ終わって初めて味が身にしみる程度の程よさがいいのではと、コンセプトは二転三転していた。

 そして、最終的な味をランチメニューとして売り出すのと同等な薄めの味付けを夜間に、昼間には味の濃い物を提供すると決定した。これでデータの収集も、主催者側の意向に反せずに、こちらの目的を果たせる。