コンテナガレージ

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焼きそばの日9-3

「……焼きそばの日に合わせてランチを出しましたね?」

「そうです」

「焼きそばの日は去年から日程をずらしたんですよ、翌月に」

「勝手な改変が一声で可能な世界か、私とは無縁であって欲しい、一生」店長は驚くふうでもなく、煙を吐く。立位置が入れ替わり、風下に立ったので思う存分煙が吸える。「しかし、変更の事実をあなたは知っている、聞かされたのですか、それも電話で」

「調べましたよ。いや、偶然というか、フェスの当日、金曜がちょうど焼きそばの日だったので、日程の調整を半年前から組んでいたんですよ。ですけど、四月の中旬になって換えた手帳のカレンダーを見たら日程が変わっていた。それはもう大慌てで変更の理由を、その焼きそばパン協会に尋ねたところ、変更は三月に協会の会合により決定したそうで、なんでも日程をずらして欲しいとの打診があったようです」

「どちらからです?」

「そうめん協会から。焼きそばパンとそうめんの日が重なりを数年前から歯がゆく思っていたそうです。地方の町おこし、イベントは毎週開催、集客、目を引く魅力的な"今日の日"はばらけて欲しい、というのが現状。何でもね、かなりの大金が動いたっていう情報です」

「情報通なのですね」店長はからりと笑みを浮かべてあげた。それが聞き手の最大の功績。興味がなくとも相手には不快感を与えない、これがまっとうと言われている。

「打診を受け入れ、日程がずれ込んだ」口角を引き上げて、言った。「ああ、なるほど、前々から頼んでいた出店予定の店が軒並み、変更期日に反発したのですか。出店料は払い戻しに応じていないと、規約には書かれていた」

「ええ。皆さん、怒ってしまって。こちらのミスではあるのですが、なんにせよ規約に例外を設けるわけにはいかないと、企画運営側が断固と意見を曲げません。どうにか出店をお願いできないかと頼み込んでも、ずれ込んだ日程を翌月にそれも三日間を週末です。おいそれと、店は空けられないといわれて……、お願いした店舗すべてが全滅。そこで、あなたの店が焼きそばパンを出しているとの連絡を受けてお誘いした」

「先ほど、私の勧誘を誰かに強要されてるような口ぶりでしたが、焼きそばパンの出店依頼を私は了承した。これ問題は解消されたと思うのですが、表情を窺うとそればかりとはいえない。まだ不安要素が隠されているとでも?」

「それがですね」川上は振り返り、国見たちの位置を確かめた。かなり慎重を期している。「毎日連絡が入るんですよ、端末に。それも数時間ごとに。考えたくないのですが、見張られてるみたいで。行動を先を的確に細かく指摘される。気味が悪くって。もちろん、そちらへお誘いしたのは主催側として、脅迫があろうと無かろうと、焼きそばパンの噂を耳に入れたら、勧誘するつもりでした。だけれどもですよ、出店場所までが指定済み。これは一人では抱えきれない、どうでしょうかね?」

「私に聞いているのですか?」店長には質問しているようには思えなかった。「もっと頼りがいのある、方々がいらっしゃるとは思いますけれどね、暑い中、制服に身を包んだ人々とか」