コンテナガレージ

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焼きそばの日9-5

「馬鹿みたい、言ってないで、お前は道を覚えたのか?」館山はぐっと小川を引っ張ったようだ、後部座席から伝わる振動。道はまっすぐに伸び、三車線の道路は快適に車が走り抜ける。

「私も覚えるんですか?」

「私とお前に運転の代役が回ってくるかもしれない」

「けど、ナビがついてますし、問題ないと、思いますよ」

「ナビが壊れたら、どうすんのよ?」

「それは、極論過ぎます」

「いいから、応えて」

「ううんと、まずは地図を借りるか、人に道を聞きます」

「時間をロスしてる」

「だって、それは、はぁい」

「だったら、端末出して風景を記憶して目標物の一つでも覚えな」

「わかりましたよ、もう」

 後部座席、厨房の二人組みの会話が沈黙、どんよりと湿った空模様みたいに沈み、車はそれぞれの自宅、住まいへと向かった。

 国見と二人の車内。彼女が運転席、信号待ちでこちらを盗み見る。何か言い出したい様子だった。店長は助け舟を出す。

「会場付近は店が発する熱で気温を上げる。プレハブの店はクーラーを止めていられないほどの暑さかもね」

「館山さんは安佐に強く当たりすぎています」国見が言った。

「そうだね」

「指導はなさらないのですか?」

「僕が?彼女たちに任せるよ、店は学校じゃない。もちろん、互いの距離は近い、生活時間の共有も長い、丸一日は一緒にいることになる」

「だったらなおさら、安佐に辞められては店が回りません」

「館山さんの言い分は正しいと思うけどね」

「先を読みすぎです、彼女は。私は押し付けに賛成はできません」

「うん。押し付けはよくないだろう。だけど、館山さんはまっとうな言葉を選んでいた、誤解を生んだのは解説をはしょったからだ」

「神経質な性格なだけでは?」クラクションが鳴る。青信号だった。慌ててアクセルを踏んだ国見、車が急加速で、シートに押し付けられた。「すいません、判断が遅れて」

「いいや、慣れていないんだ。仕方ないよ」

「それで、館山さんはその、何かしら意図があっての発言だったのですか?」

「彼女はね、無駄なことを回避しようとした。つまり、神経質な自分の性格を逆手に取ったのさ。覚えた道はいずれ、いつか、どこかで、活用されるかもしれない、そうやって考えると無駄なことだとは思えなくなる。しかし、出番が回ってこなかった、無事に国見さんが車を運転して、パンが運ばれたら、覚えた時間と労力と情報は無に返してしまい、無意味、むなしさ、はかなさが気持ちを、やり込めなくしてしまう。覚えろっていう、言い方は賛成できないけど、小川さんへの忠告は先輩としての気構えに形を変えて不条理を埋め合わせの処理を行った。端的な発言は、まあ、年上なんてみんなそんなもの、言ってることの大半はすべて自分が通ってきた道だから、それを縮め、かいつまんで話そうとする。だけど、後輩には意図がまったく伝わらない。こうしなさい、ああしたらいい、こっちが正解だ。正しいんだろうね、でも、他人の経験は相手には臨場感がまったく伝わらない。親切心だよ、すべてがね」