コンテナガレージ

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ガレットの日2-4

「言いましたね、聞きましたね。田所、証拠は撮った?」真柴は嬉々として田所の腕を掴む。田所がおもむろに腕にはめた真四角、角がとれた時計を突き出し、表面を指先で触った。完了、作業の終了を伝える音楽が流れた。どうやら、録音をしていたようだ、テクノロジーの進化、進む最先端技術。踊らされている、追いつくだけで疲弊しそうな焦燥感が生み出した幻想なのに……。

 フランス料理推進普及協会の二人は、店長の発言を受けて、記録を取り、証拠に満足した様子で帰った。入れ違いに館山が休憩から戻る、今日は小川が先に休憩に入ったので、最後に戻った館山だった。室内の雰囲気を感じ取った館山はすかさず店長に尋ねたが、店長はただ淡々と明日のランチの変更を伝えた。協会の訪問は話さなかった、必要性を感じなかったのである。小川や国見が話しても咎めはしない、ただ店長が事実を大まかにしゃべっていた場面を見て、彼女たちは翌日を迎えるまで、口を開かなかった。

 フランス料理普及促進協会に従い、ランチはテイクアウトに変更した。ハンバーグは店内飲食を決めていた。急な変更にもテイクアウト用の品を代用するだけで、なんら面倒な対応というわけではないのだ、この店の従業員たちにとっては。ガレットの原料となる製粉されたそば粉を扱う業者に発注をかけ、無理を言って前日の午後の便で店に運んでもらった。

 営業終了後に店長は水で溶いたガレットの焼き加減を研究した。まずは、粉に対する分量と水の割合を調べる。

 実験。

 分量を正確に量り、水の量を調節、若干のゆるさがあると、フライパンに溶いた液が引き伸ばせると知れた。発見である。

 店員たち、主に厨房の二人は残って作業を手伝いたいと進言したが、店長は断った。明日の朝は睡眠と休息をとって仕事に望んで欲しい、店長自身の体力は休まずとも十分に確保できている。食事は一日に二食、間食、甘いものは一切食べない。味見と料理の試作で栄養は賄える。それに食事は体力を消耗する。

 次の日。

 午前七時の厨房。昨夜の事件を踏まえて、ピザ釜に火を入れておく。午後まで使用しないが、これから本番を迎える夏季の暑さに慣れておくために、一定の室温を保つのだ。

 ガレットは薄い焼き加減と食感が重要視されるみたいだ、昨日学んだ。ただし、ボリュームが少ない、ランチとしてお腹を満たすには具材の充実が必要。そこで、店長はハンバーグのひき肉を代用した。少量の生地を混ぜ合わせる。同じではいけないとは、あの女性は言わなかったはずだ、店長はガレットの概念の破壊に取り組んだ。ひらめいたと言い換えてもいいだろう。薄さを取り払う。厚さが欲しくなって、焼いてみるが、焼き上がりに時間がかかった。そこで背後のピザ釜の登場。耐熱性のステンレスのバッドにガレットの粉を溶いた液、大判で焼き上げ、取り出してカットをする。昨夜とは打って変わって、正反対の食べ物に変わろうとしていた。一人分をまずはそのまま試食。ハンバーグのひき肉には薄味をつけている、しかも肉汁が程よい生地のやわらかさを保っているので、歯を押し返すほどの弾力性は感じないが、ちょっと厚いか……。