コンテナガレージ

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ガレットの日2-5

 店長はサイドに切れ目を入れて、生地を半分に開く、ハンバーガーのお尻がかろうじて繋がる感覚を採用した。これで一口が小さくても、上と下の生地を一枚ずつ食べれば、問題は無い。実食。店長は頬張る。うん、合格。

 次には中に入れる具材だ。あまり肉を多用するのは、気分をそがれる。

 小川が持っていたレシピ集の記事を思い出す。しかし、レシピの卵は半熟に仕上げているので、今回は採用を見送った。

 テイクアウト、卵は完全に火を通すのが原則だ。だけど、卵は採用する。卵黄と白身は混ぜすぎないように止めよう。ものは試しだ。十五センチのフライパンに卵を二つ割って、いっぺんに焼き、取り出して二等分。

 彩りという意識を店長はまったく持たない。見栄えは確かに大切ではあるが、積極的に摂取するなら、別途単品で買い揃えるべき、という考え。よって、緑の野菜は挟まないと決めた。では何をもって食感の違いを演習するべきか、店長は思案する。

 そばに合う具材。一般的なそば、つまり日本で食べられるそばは、主に汁につけて食す。薬味は少量、あってもなくても味自体の構成は変わらない。温かいそばではどうだろうか。こちらは山菜のイメージが強い。緑でも深い緑。鮮やかさとは無縁の長物。それと肉も一緒に食べることもある。葱の大きさは変化する、大きくなるのだ。葱を焼いてみる。そして、卵と生地とで包んで一口。 

 ドアが開いた。館山と小川が揃って出勤。彼女たちにも味の感想を求める。おいしさは共有して、二人はハンドサイン。これでメニューが確定した。

 店長は突発的に訪れた昨日の二人を現在では歓迎している。視界不良の方が試行錯誤、見える限りの視界で操作を試すのだ。単純な同意に降りかからない思考を、そして形成を促す。ハンバーグは店長の中では魅力の薄い、しかし集客の見込める、おいしいものに形を変えていた、登場から現在までの味や提供はまったく変わっていないのにだ。最近ではすっかり対決メニューのデータも集めていなかった。お客の傾向を把握するためのデータは、利用後にすべて破棄していた。目的は完遂され、喜ぶべきなのに、達成感は虚無を居座らせて、次の行動に向かう足を引っ張っている状態。現状は次の一手を模索。

 店長は、お客へのアプローチを変えるつもりでいた。それはメニューの提供か、メニューのそのものか、売り方の変更か、時間帯か、幾つかの案は営業中、脳内を駆け巡るのだった。一つの目安が崩れると、それまでつくり上げていたバランスがあっさりと崩壊する。店長は一定の基準に頼るべきではない、と常々考えていた。それは従業員たちには伝わっているだろう、僕を見ているのだから。

 ハンバーグは見込んだ数の三分の一にも満たない量でランチを乗り切った。

 残りは今日のディナーに回わる。

 ガレットが、ランチ終了まで売り切れずに生地を作り続けられたのは、絶対数が多い食品の使用が理由であった。